2023.3.20

自然と共に生き、人とのつながりに喜びを見出す
世界初FSC認証和太鼓「森をつくる太鼓」が伝えるもの

宮本卯之助商店「森をつくる太鼓」

160年以上にわたって太鼓や神輿などの製造・販売を手掛ける「宮本卯之助商店」。2022年3月に、サステナブルな太鼓づくりを模索・発信する「森をつくる太鼓プロジェクト」を始動し、第一弾として、東京・檜原村の林業会社「東京チェンソーズ」と連携してFSC認証材を用いた「森をつくる太鼓」を発表しました。伝統的にサステナブルなモノづくりを行なってきた同社が、あえてFSC認証材を使い、プロジェクトとして立ち上げたのはなぜか。その経緯や思いなどについて、代表取締役社長の宮本芳彦氏にお話を伺いました。

お話しを伺った方

株式会社 宮本卯之助商店
代表取締役社長 宮本芳彦さん
浅草生まれの江戸っ子。「街育ちでずっと森には憧れがありました。このプロジェクトを通じて、森で過ごす快適さを実感しているところです」

■世代を超えて受け継がれていく。太鼓は”サステナブル”な伝統楽器

神輿が街中を練り歩き、太鼓の力強い響きを中心にお囃子で盛り上がるーー。そんな日本の祭りや伝統芸能を支えてきたのが、宮本卯之助商店です。文久元年(1861年)の創業以来、伝統の技を受け継ぎ、太鼓などの楽器や神輿などを製作してきました。浅草三社祭をはじめ日本全国の祭礼で使われ、宮内庁や歌舞伎座などの御用達のほか、近年は海外の演奏家からも注文が入るといいます。

店舗では長胴太鼓やかつぎ桶太鼓など様々な太鼓を販売している。世界の太鼓を集めた太鼓資料館「太鼓館」も運営(https://www.miyamoto-unosuke.co.jp/taikokan/)。

「自然に祈りを捧げ、人々の心をつなげる伝統芸能や祭りは、日本が世界に誇れる文化。太鼓はその中心となる楽器として、国産の木にこだわり、手作業でつくっています」(宮本さん)

宮本卯之助商店の太鼓は、樹齢100年以上のケヤキなどをくり抜き、数年乾燥させてから成形するという伝統的な工法。目止めや和ニス塗り、金具をつけるなどの、工程を経て昔ながらの糠で加工した牛皮を張ります。お店の奥にある工房では、それぞれの職人さんが黙々と作業し、皮を止める釘打ちの音がリズミカルに響いています。

そして、新しいモノをつくるだけでなく、修理や調整も重要な仕事の一つ。全国各地から送られてきた御神輿や太鼓などが所狭しと並び、カレンダーは来年まで予約でいっぱいです。

「100年、200年以上前に作られた和太鼓が、今も現役で活躍しています。用途や使われ方によって異なりますが、10〜25年ごとにメンテナンスすることが多いですね。こちらの太鼓は50年目で皮を張替え、漆を塗り直しました」と、工房内を案内してくださった大久保慎也さん。

「図面がなかったり、一つ一つ仕様が違っていたりして、元通りにするのは大変ですが、金具などもできるだけ当時のものを生かして補強しています。そうやってまた次の世代へと引き継がれていくんです」。

職人さんの中には、大久保さんをはじめ若い方も多く、伝統の技とモノづくりの心が受け継がれているのが伺えます。太鼓は正しく管理し、適切にメンテナンスをすれば、一生モノどころか、何代にも渡って使い続けることができます。そして、そこに込められた思いも一緒に受け継がれてきたといっても過言ではないでしょう。

しかし、その一方で、世の中では日本の文化にまつわるモノづくりにおいても、海外生産や工業化による安価な製品の使い切りが進んでおり、宮本さんは大きな違和感を感じていたといいます。

宮本芳彦さん

「古来から、太鼓は情報伝達などの実用とともに、自然の恵みに感謝し、神様を祀るために使われてきました。また楽しむため、エンターテイメントとしても親しまれてきました。そんなふうに自然との共生を願い、皆の楽しみや幸せを思って打ち鳴らしてきた太鼓を、次の世代にどのように伝えていくか。私たちにとって、とても重要な課題だと考えています。その一つが、『東京の技と材で循環を作る』というコンセプトでした」(宮本さん)

■日本の伝統的なモノづくりに世界的な環境基準を融合し「今にふさわしい太鼓」へ

そんな時に、宮本さんにある出会いが訪れました。2019年の秋、知り合いの演奏家を通じて、東京チェンソーズの青木さんを紹介され、東京・檜原村にFSC認証の森があることを知ったといいます。

「日本の伝統的なモノづくりすら海外に依存し、外材が多く輸入されているけれど、ごく身近な森に使われずにいる潤沢な資源がある。それを知って、改めて違和感を感じましたね。ぜひとも、このプロジェクトを青木さんと実現させたいと思いました。そして、私たちの思いや価値観を世界に向けてわかりやすく発信するには、国際認証であるFSCを活用することが有効と考えたんです」(宮本さん)

青木さんと宮本さん
2022年12月開催の「”森をつくる太鼓”演奏会「はじまりの森」にて。
東京チェンソーズの青木亮輔さん(左)と宮本さん。

実は、FSCの出会いは、さらに遡ること2010年、名古屋で開催された「生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)」でのこと。ステージプログラムのフィナーレとして、喜多郎さんの呼びかけで実施された「千人太鼓」の手持ち太鼓を、FSCの木材を使って作ったことがきっかけでした。

「当時は、正直言って、『なんて手間のかかる仕組みなんだ!』と思いました(笑)。でも、それがあるからこそ、トレサビリティを含めて、FSCの価値をしっかりと消費者に届けられるのだと納得感もありました。それでずっと頭の中に残っていたのですが、青木さんとの出会いでFSCと再会することになり、本来の日本的なモノづくりと、現代のサステナビリティの考え方と融合させることで、『今にふさわしい太鼓』を作ろうと決心したわけです」

東京チェンソーズのFSCの森は、戦後に植えられた樹齢70年以下の杉がほとんど。さらに樹齢が若い間伐材を活用する必要もありました。普段は使わない板材ながら、「かっこいいものができる」と直感したといいます。

「職人は常に最高のものを作りたいと努力しているので、新しい要素を不確実性とも見るんです。それによって全体のクオリティが下がる恐れがあるわけですから当然ですよね。でも、社会が変わるのに同じことは続けていられない。大切な部分を変えないために、変えるべきこともあるわけです。それを伝えつつ、アイディアを出してもらい、工夫してもらいながら開発を進めていきました」(宮本さん)

今までに行なったことのない塗装もその一つ。樹齢が若い間伐材を活用するとなると、木目が揃った”柾目(まさめ)”だけでなく、不連続的な木目が入る”板目(いため)”も使う必要がありました。

「木目の面白さを活かして木の存在を際立たせようと、高級家具の塗装屋さんに持ち込んで相談したところ、木目を立体的に浮かせる塗装を提案してくれました。そのおかげもあって個性が際立ち、東京の太鼓らしいスタイリッシュな雰囲気に仕上げることができました。そんなふうにして社内外の皆で相談し、協力し合いながら新しい太鼓を創り上げてきたのです」

あえて生かした木目が美しい!ブランド名とFSCマークのプレートもおしゃれ。
あえて生かした木目が美しい!
ブランド名とFSCマークのプレートもおしゃれ。

■FSCの森での「森をつくる太鼓」の演奏会を企画・開催

周りを巻き込んで試行錯誤しながら「森をつくる太鼓」が完成すると、次に宮本さんが仕掛けたのが、東京チェンソーズの森での太鼓演奏会「はじまりの森」でした 。

「『森をつくる太鼓』について、物語をどう伝えていくかが次のテーマでした。今はインターネットで調べられるし、動画も普通に見られる時代です。でも、『この森の木を使ったんだ』と実感してもらうのに、故郷の森で太鼓の音を聞いていただくのが一番だと思いました。山の中まで重い太鼓をどうやって持ち込むのか、天気は大丈夫かなど、懸念する声もありましたが、スタッフと一緒に森に行き、とりあえずやってみようと思い切りました」(宮本さん)

そんな思いに応えるかのように、2022年5月の「お披露目会」では開始1時間前に雨が止み、同年12月の「はじまりの森 ’22 冬〜木々にかこまれた演奏会」は清々しいほどの晴天。いずれも多くの方々が参加し、森の中で生命力あふれる太鼓の音色に耳を傾けました。

「会場がちょうどすり鉢状になった地形だったんですが、まるで古代の円形劇場のように音が響き渡るんです。集まってくださった皆さんも初めての体験だった方が多く、『迫力があってよかった』『開放的で気持ちよかった』と様々なコメントをいただきました。そして印象的だったのは、1回目と2回目で、音の響き方が違っていたことです。季節が違うからなのか、木が育ったのか、森という自然の演奏場ならではの難しさであり、面白さだと思います。今後も工夫しながら続けていきたいですね」(宮本さん)

そして、森の演奏会に限らず、日本の文化である太鼓について、次世代にもっと関心を持ってもらえる機会を増やしていきたいといいます。

「どのような祭りや伝統芸能も、それぞれの土地の文化や価値観に根ざしており、そこから切り離された途端、単なるファッションになってしまいます。大人はもちろん子どもたちにも、太鼓の楽しさやFSCという選択を通じて、日本が本来大切にしてきた『自然との共生』や『人とのつながりの大切さ』を感じてもらえたらと考えています」(宮本さん)

老舗と呼ばれ、伝統を重んじながらも、新たな挑戦にも意欲的に取り組んできた宮本卯之助商店。FSC認証の「森をつくる太鼓」が響かせる音は、新しくも普遍的なメッセージであることは間違いないでしょう。「はじまりの森」のほか、今年は各種イベントにも登場する予定とのこと。ぜひ、足を運んでみてはいかがでしょうか。


株式会社 宮本卯之助商店
https://www.miyamoto-unosuke.co.jp/

RELATED POST関連記事