2023.5.11

第14回 FSC認証と 「管理活動の実施」

責任ある森林管理のために、FSCが定めている「10の原則」。今回はその原則の10番目、「管理活動の実施」について詳しく見ていきましょう。

FSCの原則10「管理活動の実施」とは?


 
FSC10の原則の10番目は「管理活動の実施」がテーマだね。
はい。まわりの環境や社会に配慮した管理活動を適切に実施していこうという原則です。林業には木を植えてから収穫するまでさまざまな作業があり、その1つひとつについて環境や社会への影響を考えながら行う必要があります。
「原則6」とちょっと似ているような…?
 
参考:FSC講座 第6回 FSC認証と「環境保全」
原則6は、環境保全に軸足を置いて、広く環境保全のための活動を求める原則です。林業を行っていない場合でも守らないといけない項目がたくさんあります。一方、原則10は、林業を行うことに軸足を置いて、林業を行うときに環境、社会、自然災害などへの配慮をしっかりしましょうという原則なのです。
具体的に、原則10ではどんなことを守る必要があるの?
 
FSCでは次の12の基準を定めて、これらを守ることを求めています。
 
10.1  伐採後速やかに森林が復元するよう努めている
10.2  その土地本来の環境や管理目的に合った樹種を使っている
10.3  外来種を使用する際は、悪影響を抑えている
10.4  遺伝子組換え生物を使用していない
10.5  その土地本来の環境や管理目的に合った森づくりを行っている
10.6  肥料はできるだけ使っていない
10.7  農薬はできるだけ使わず、禁止された農薬は使用していない
10.8  害虫等の対策に他の生物を利用する場合は十分注意し、悪影響を抑えている
10.9  自然災害の被害を抑えるように管理している
10.10  生態系を傷つけないようにインフラの整備や輸送を行っている
10.11  林産物を無駄なく最大限利用している
10.12  ゴミは適切に処理している
 
細かい点まで注意しなければいけないんだね!
ただし、注意するポイントは、国によってちがいます
例えば、日本ではもとから林業に肥料を使うことはほとんどなく、廃棄物の処理は当たり前のように行われています。また、外来種の使用についても、日本の人工林ではスギ・ヒノキを中心とする在来種(昔からその地域にあった種類)を植えることがほとんどです。これらについては特に注意しなくても、FSCの基準に合う管理をしている場合が多いようです。
 
一方で、病気や害虫の対策のために農薬が使うことはあるので、注意が必要です。FSCが指定する危険農薬には「禁止/高度制限/制限」の3つのレベルがあります。現在、日本で使われている「松枯れやナラ枯れ対策の殺虫剤」「丸太に虫が入らないようにする殺虫剤」「シカなど、苗木を食べてしまう野生動物を寄せ付けないようにする薬」などには、FSCで危険農薬とされている農薬もあります。 FSC認証林では、禁止農薬は使えないため、「制限」または「高度制限」にあたる農薬を、環境・社会への評価や危険性をおさえる対策を行いながら、使用する必要があります。
(イメージ写真)

FSCの原則10「管理活動の実施」は、なぜ必要?


 
この原則は、なぜ必要なの?
 
農薬や肥料をむやみに使ったり、伐った木や枝葉が大雨で流れ出すような状態で放置したり、木を伐りだすために必要以上に広い道を開設したりするなど、管理活動の仕方が適切でないと、まわりの環境や社会に悪影響を与えてしまうからです。適切な管理活動を行うことによって、森の恵みを長く得られるようにするほか、生物多様性の保全、きれいで豊かな水を育むこと、土砂崩れや洪水などの災害対策、地球温暖化の防止などにつなげていくことが大切です。
管理活動が適切でないと、具体的にどんな悪影響があるんだろう?
実際に起こっている問題の例を、いくつかご紹介しましょう。
 
日本には、管理が行き届かず、間伐(かんばつ)遅れになっている森がたくさんあります。間伐とは、木の生長をよくするために、主に育ちの悪い木や枯れかかっている木を間引いて木の本数を減らすことです。間伐を適切に行わないと、木が競争し合って太く育たず、林の内側に光が行き届かないため、林床(森林内の地表面)に植物があまり生えなくなってしまいます。そうすると土がむき出しになって浸食されやすくなり、木も健康でなくなるので災害にも弱くなります
 
また、最近は皆伐(すべての木を伐る)も増えているなか、そのあとに木を植えて育てるにはお金がかかるからと、伐ったままにしているところも少なくありません。日本の森林は再生力が強いので、これまでは「放っておけば広葉樹が生えてくる」と考えられていました。しかし今は、シカなどが枝葉を食べてしまうなど野生動物による害がひどく、自然の力で森林を再生させることが難しいところもあります。また、林業に向いているところ(よく肥えた土地、アクセスのよい土地)の再植を行わないと、将来にわたって木材を生産し続けられなくなる可能性があります。
 
なるほど。そんな問題が起こらないように管理することが大切だね。
(イメージ写真)

人工林は、どんなふうに管理されている?


 
そもそも、森林の管理にはどんな作業があるの?
森林を大きく分けると、木が自然に生えてできた「天然林」と、人間の手で植えられた「人工林」があり、それぞれで管理方法がちがいます。日本の木材生産のための人工林では、40~60年かけて主に次のような作業を行います(状況によっては80~100年あるいはそれ以上かける場合もある)。
 
▶苗木の栽培   2~4年かけて畑で苗木を育てる。
▶植え付け   その土地に合った種類の木を選んで、山に植える。
▶下刈・つる切り   苗木の生長をじゃまする雑草を刈り(下刈)、木にからみついたつるを切る(つる切)。苗木が雑草に負けないくらいに育つまでの5~8年間、年1~2回行う。
▶除伐(じょばつ)   植えた木のまわりに自然に生えてきた木や、育つ見込みのない木を伐る。
▶枝打ち   より質の高い、節のない木材を生産するために、低いところにある枝を切り落とす。(樹種などによって行わない場合もある)
▶切り捨て間伐   植えてから15~20年くらいたつと、木と木の間が混み合ってきて、木全体に太陽の光が届かなくなるので、主に育ちの悪い木や枯れかかっている木を間引いて木の本数を減らす。
▶搬出間伐/利用間伐   太くなってきた木を少しずつ伐って、木材として出荷しながら、残った木を生長させる。主伐まで、間伐は繰り返し行う。
▶主伐(しゅばつ)   十分に大きくなった木を木材として収穫する。収穫の方法には、いっぺんに全部伐る方法もあるが、少しずつ伐ることで森林の環境変化を小さくする方法もある。
 
このほか日常的に、道の管理や病気、虫や野生動物による食害、不法行為などを見つけるためのパトロールなどを行っています。
こんなにいろいろな作業があるんだ! この1つひとつについて、環境や社会への配慮が必要なんだね。
(イメージ画像)

天然林は、どんなふうに管理されている?

じゃあ、天然林の場合は、自然の力に任せておけばいいの?
 
管理目的が、木材の生産なのか、教育研究なのか、自然保護なのかなどによってちがいます。
自然保護のために、人の手を一切加えないほうが適切なところもあります。一方で、木材生産のために、必要な種類の木の次の世代が育っているかなどをチェックして、必要に応じて人の手で木を植えたり、太陽の光が入るように木を選んで伐ったりと、ある程度の人の手が必要なところもあります。
自然の力で育った天然林でも、木材生産のために木を伐っていいんだね。
日本では「天然林の木は伐ってはいけない」と思い込んでいる人も多いようですが、そんなことはありません。欧米や熱帯地域では、天然林で必要な木を一本一本選び、それだけを伐る方法が多く行われています(択伐施業)。天然林でも、必要な木材を生産しながら、まわりの森林生態系はなるべく傷つけず、自然な森の再生力によって次世代の木も確保するような管理を行えばいいのです。
 
人工林も、天然林も、林業を営む人たちが細かく適切な管理をしてくれるから、みんなにとってかけがえのない森であり続けていることがよくわかったよ!
天然林は、生えている木の種類も年齢もさまざま
 

【まとめ】
林業には、木を植え、育て、収穫するまでさまざまな作業があります。むやみに木を伐ったり、肥料や農薬をたくさん使ったりすると、森林の環境や地域社会に悪い影響を与えてしまうかもしれません。そうならないよう、1つひとつの作業で注意する必要があります。

これですべての原則の紹介が終わったよ

原則1~9をもう一度読んでみるのもいいね!

監修:FSCジャパン

FSC C011851

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