2021.7.16

第6回 FSC認証と「働く人の権利や安全」

責任ある森林管理のために、FSCが定めている「10の原則」。今回はその原則の2つめ、「働く人の権利」について詳しく見ていきましょう。

FSCの原則2「働く人の権利」とは?


 
FSC10の原則、2つめは「働く人の権利」だね。森で働く人たちは、どんな仕事をしているの?
ひとことで言えば、森を育て、育った木を伐って売るという仕事です。

 
例えば日本の山でスギやヒノキを育てる場合、植えた苗木が大きくなるまでに40~60年かかります。その間には、

 
・下刈り:木の成長のじゃまをする雑草やツルを刈る
・枝打ち:節のないきれいな木材をつくるために、低い位置の不要な枝を落とす
・間伐(かんばつ):曲がったり枯れたりしている木を伐って、育てたい木に日光を届きやすくして成長させる

 
…など、いろんな手入れをしています。そうして成長した木を伐り、森から運んできて丸太にして売ります。そして、また苗木を植える、ということを繰り返します。こうした自然の中で大きな木を相手にする仕事には危険も多く、さまざまな対策が必要となります。

そんな林業の現場で働く人たちの権利や安全を守りましょうということを、FSCは呼びかけているのです。

林業の現場 ©藤島斉

FSCの原則2「働く人の権利」は、なぜ必要?


 
この原則は、なぜ必要なの?
 
世界のさまざまな国の林業の現場では、森の持ち主のような強い立場にある人たちが、自分たちの利益を優先して、弱い立場の人を悪い条件で働かせたり、安全対策をしっかり行わなかったりといったことが少なくありません。そうしたことが起こらないよう、働く人たちを守るのがねらいです。

 
FSCは、どんな権利や安全を守ろうと呼び掛けているの?
FSC認証の審査でチェックしている、原則2についての6つの基準を見ると、具体的にイメージできるでしょう。
 
2.1  国際的に認められた労働者の基本的な権利を守っている
2.2  男女を平等に扱っている
2.3  安全のための取組を行っている
2.4  最低賃金を満たしている
2.5  労働者に必要な教育や訓練を行っている
2.6  労働者からの意見には誠実に対応し、労働災害の補償を適切に行っている
高い木の上での作業

日本の森で働く人たちの状況は?


 
そもそも林業の現場で働く人たちって、日本にはどれぐらいいるの?
2015年時点で45,440人です。1980年には146,321人でしたから、だんだんと減ってきています。日本の生産年齢人口(15~64歳)が減少し、さまざまな業界で人材を確保するのが難しくなっているのですが、林業の現場でも厳しい状況です。
 
一方で、地方で暮らしたいという若者が増え、森の担い手を育てる国の事業の効果もあって、若年者率(35歳未満の従事者の割合)が1980年は10%でしたが、2015年は17%に増加しています。
 
※参考:総務省「国勢調査」

 
林業を盛り上げていくためにも、現場で働く人をしっかり守っていくことが大切だね。
FSC認証林で働く人たち ©藤島斉

FSCは、働く人の男女平等をどう守る?


 
林業の現場には男性が多いイメージがあるけれど…。
 
2015年のデータでは、日本で林業に従事する男性は42,690人、女性は2,750人。女性の割合は全体の約6%と非常に少ない状況です。しかし、林業の機械化が進んだことで女性の活躍する場は広がっていて、男性が行うことが多かった「伐木・造材・集材」(木を伐る・伐った木を適当な長さに切って木材にする・散らばった木材を集める)の仕事を行う女性の数は増えてきています。
 
※参考:総務省「国勢調査」

 
さっき教えてもらった6つの基準のなかには、「男女平等」についての項目もあるね。
はい。FSCでは、雇用や昇進の機会が男女平等にあること、同じ仕事をしている男女には同じ賃金が払われること、母親の産前産後休業が取得できること、子育て中の労働者にやさしい仕組みづくりに努めることなどを細かく定めています。
 
女性が働きやすい環境を整えることは、人手不足の改善や、男性も含めた働きやすさにもつながったりして、全体に良い効果があるんですよ。
男性も女性も活躍できるといいよね!
木を伐る現場でも女性が活躍 ©FSC A.C.

FSCは、働く人の安全性をどう守る?


 
安全性についても気になるね。
そうですね。山の斜面で大きな木を伐り倒したり、高い木に登って枝を切ったり、チェーンソーなど刃の付いた機械を使ったりする林業の仕事には、危険がつきものです。仕事に関連した死傷者の発生率は、全産業平均の約10倍というデータもあります。ですから、安全対策はとても大事です。
 
※参考:厚生労働省「労働者死傷病報告」及び総務省「労働力調査」(令和元年/休業4日以上)

 
 
FSCではどんな安全対策を呼びかけているの?
 
国際労働機関(ILO)が定める「林業労働における安全衛生に関するILO行動規範」の水準以上という、かなり高い安全衛生対策を求めています。
 
具体的には、安全衛生に関するマニュアルなどを作って実施すること、ヘルメットや防護ブーツなどの安全装備を行うこと、そして、もしもケガや病気になってしまったときは休業手当を支給することなどを求めています。
 
実際にFSC認証の取得に取り組んだ森の人たちからは、「安全対策への意識が高まった」という声がよくあがるそうですよ。

 
 
改めて安全性について考え、改善する機会になっているんだね。
ヘルメットやチェーンソー防護用の服を着用して作業

FSCは、働く人の生活をどう守る?


 
 
林業の現場で働く人たちの生活は、どんなふうに守られているのかな?
 
原則3には、生活するうえで大切な「賃金」についての基準もあります。FSCは林業経営者(雇い主)に対し、都道府県が定める最低賃金を超えることはもちろん、働く人やその家族が十分に生活できるだけの生活賃金を支払うことを求めています。
 
また、現場で働く人に、自分たちの賃金や勤務時間などの待遇や働くうえでの問題について雇い主と話し合う権利を保障することとしています。
 
働く人たちが十分な賃金を得ることができ、そして安全で快適に働くために必要なコストをかけられるように、FSCは林業の現場にもしっかりお金が回るようなしくみづくりを目指しているのです。

 
 
何かを買う時つい安いものに目が行きがちだけど、「安い」「高い」の裏側にどんなことがあるかを想像することも大切だね。
きれいに製材されたFSC認証林の木材

 
 

【まとめ】 世界各国の林業の現場には、不利な条件や劣悪な環境のもとで働かざるをえない労働者もいます。そこでFSCでは、森で働くすべての人たちが平等に、そして安全に働くことができ、適切な賃金が得られるよう、基準を決めてチェックしています。

FSCは森で働く人を大切にしているね!

次回は原則3「先住民族の権利」について学ぼう!

監修:FSCジャパン

FSC C011851

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