2022.12.21

第13回 FSC認証と「高い保護価値(HCV)」

責任ある森林管理のために、FSCが定めている「10の原則」。今回はその原則の9つめ、「高い保護価値(HCV)」について詳しく見ていきましょう。

FSCの原則9「高い保護価値(HCV)」とは?


 
FSC10の原則、9つめは「高い保護価値(HCV*)」がテーマだね。
  *HCV=High Conservation Values
はい。森の中にある特に貴重な自然環境や生態系サービス、文化財などの存在を調べてしっかり守り、その価値を次の世代にも引き継いでいこうという原則です。
具体的にはどんなことを求めているの?
 
FSCでは次の4つの基準を定めて、これらを守ることを求めています。
 
9.1  保護すべき価値がある自然や生態系サービス、文化財などの存在を調べてある
9.2  特定した保護すべきものを守る方法を関係する人々や専門家と共に決めている
9.3  保護すべき価値を守る計画と方法を実施している
9.4  保護すべき価値の状態を定期的にチェックして、問題があれば保護活動を見直している
 
実際には「HCV」にあてはまるものが無い森も多いのですが、管理者が勝手に「無い」と決めつけるのではなく、きちんと調査を行ったうえで関係する人々や専門家の意見を踏まえて結論づける必要があります。
(2点ともイメージ画像)

FSCの原則9「高い保護価値(HCV)」は、なぜ必要?


 
この原則、FSC設立当初は無かったんだってね。
 
はい、世の中の意識の高まりを受けて、1999年に新たにできた原則です。経済面だけでなく環境面と社会面にも配慮した森林管理を目指す、FSCならではの取り組みといえるでしょう。
 
実は、「HCV」という概念は、このときFSCが生み出したものです。それがより大きな形として発展し、現在ではFSC認証に限らず多くの環境認証の枠組みや、さまざまな自然保護の取り組み に導入、活用されるようになりました。
FSCが社会をリードしてきたんだね。
HCVをめぐる状況は国や地域によってさまざまなので、HCVの調査・特定、管理方法の策定、モニタリングなどの具体策は、各国・地域の状況に合わせて行う必要があります。日本では、国際的な文書をもとに国内の状況をふまえ、2020年、日本語でガイダンス文書がまとめられました。森林管理者や関係者が現場で使える実用的なものになっています。
これで日本でのHCVを保護する取り組みが進むといいね!
『日本における高い保護価値(HCV)の枠組み』FSC®日本国内森林管理規約 付録 日本語参考訳 FSC-STD-JPN-01.1-2020a

「高い保護価値(HCV)」の対象は?


 
HCVって、具体的にはどんなものが対象になるの?
2015年に発表された FSC森林管理認証の原則と基準第5-2版(FSC-STD-01-001 v5-2)では、「種の多様性」「景観レベルでの生態系とモザイク(異なる生態系が入り混じる様)」「生態系と生息・生育域」「不可欠な生態系サービス」「地域社会のニーズ(需要)」「文化的価値」の6つに整理され、それぞれ次のように定義されています。

■HCVの定義

カテゴリー】【定義】
HCV1  種の多様性:世界、地域または国レベルで重要な固有種と希少種または絶滅危惧種を含む生物多様性が集中している場所
HCV2  景観レベルでの生態系とモザイク:世界、地域、国レベルで重要であり、数多くの自然発生種の存続可能な個体群が本来の分布や数で存在している原生林景観、大規模な生態系と生態系のモザイク
HCV3  生態系と生息・生育域:希少、危急または絶滅が危惧される生態系、生息・生育域またはレフュジア(退避地)
HCV4  不可欠な生態系サービス:集水域の保護や脆弱な土壌と斜面の侵食や崩壊の防止を含む、危機的な状況において重要な根本的な生態系サービス
HCV5  地域社会のニーズ:地域社会または先住民族との協議の下で特定された、地域社会または先住民族の基本的な生活(例:生計、健康、栄養、水など)に欠かせない場所と資源
HCV6  文化的価値:世界的または国家的に、文化的、考古学的または歴史的に重要な場所、資源、生息・生育域と景観、及び/ または地域社会または先住民族との協議の下で特定された、地域社会または先住民族の伝統文化にとって文化、生態、経済または宗教/ 精神上の側面からに非常に重要な場所、資源、生息・生育域と景観
『日本における高い保護価値(HCV)の枠組み』FSC®日本国内森林管理規約 付録 日本語参考訳 FSC-STD-JPN-01.1-2020a
例えば、周辺地域では珍しい種類の木がたくさんある森は、HCV3にあたる可能性がありそう。また、その土地に昔から住んでいる人々の風習や信仰に関わる場所は、HCV6にあたるかもしれないね(参考:FSC講座第7回「先住民族の権利」)。
 
そうですね。
 
FSC認証林以外にも、HCVとして保護していくべき場所はきっとあるはず。HCVの考え方がどんどん広がって、大切にされるといいね!
 

【まとめ】
森林の中には、生態的、社会的、文化的に特に重要なところが存在する場合があります。かけがえのない価値を次の世代にも引き継いでいけるよう、そうした重要な価値の存在を調べ、きちんと守っていくことが大切です。

HCVがどんなものかわかったよ

次回は原則10「管理活動の実施」について学ぼう!

監修:FSCジャパン

FSC C011851

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