2021.12.23

第9回 FSC認証と「森の恵みの活用」

責任ある森林管理のために、FSCが定めている「10の原則」。今回はその原則の5つめ、「森の恵みの活用」について詳しく見ていきましょう。

FSCの原則5「森の恵みの活用」とは?


 
FSC10の原則、5つめは「森の恵みの活用」だね。
はい。目先のことばかり考えて木を多く伐りすぎることなく、これからもずっと森を活用し続けられるようにするための原則です。FSCには「環境」「社会」「経済」の3本柱を大切にしていますが、そのうちの「経済」の面で守っていきたいことをまとめたのが、この原則になります。
具体的には、FSCは森にどんなことを求めているの?
 
FSCでは次の5つの基準を定めて、これらを守ることを求めています。
 
5.1  さまざまな森の恵みを活かしている
5.2  森林をずっと使えるよう、適切な量を伐っている
5.3  社会や環境への影響も考えて計画している
5.4  地元で加工するなど、地元経済への貢献に努めている
5.5  長期的に採算のとれる経営を行っている
「さまざまな森の恵みを活かす」という基準があるけど、木材以外にはどんな「恵み」があるの?
きのこや山菜などの食べ物、七夕やお正月の飾りに使う枝や葉、植物から採れる薬の成分や良い香りの精油などがあります。また、自然に触れたり体験したりする観光客を呼び込むエコツーリズムや、努力しても排出量を減らせない分の温室効果ガスを森に投資することで埋め合わせをするカーボンオフセットの推進も、森の活かし方のひとつです。こうした森から得られるさまざまな方法で恵みを活用して、木ばかりを伐りすぎないようにすることも大切です。

ワラビやタラの芽などの山菜も、大切な森の恵み

FSCの原則5「森の恵みの活用」は、なぜ必要?


 
この原則は、どうして生まれたの?
 
背景には、ものすごいスピードで森林が失われている実態があります。世界の森林面積は、1990年~2020年の30年間で約1億7800万ha(ヘクタール)減少しました。これは日本の国土面積の約5倍にあたります。
出典:国際連合食糧農業機関(FAO)「世界森林資源評価(FRA)2020メインレポート」
なぜ森は減少しているの?
次のように、いろんな原因があります。
 
・大規模農地などへの土地利用の変更
・森に戻すことができない方法での焼畑農業
・開発途上国の人口増加による、日常生活の燃料となる薪(まき)や炭の使用量の増加
・森林火災
・決められた量や方法を守らない違法伐採
 
 
目先の必要性や利益だけで木を伐ってしまうと、森はどんどん減少してしまいます。長期的に森の恵みを活用し続くためには、適切に森を管理していかなくてはなりません。

 

森が減少している国、増加している国は?


 
世界中のどこでも、森は減少しているの?
いいえ、地域や国によって状況はちがいます。森が減っている国もあれば、増えている国もあります。
 
2010年から2020年に森林面積の減少が大きかった国は、ブラジル、コンゴ民主共和国、インドネシアなどです。特にアフリカの国々では森の減少スピードが増していて、大きな問題となっています。
 
一方で、2010年から2020年に森林面積の増加が大きかった国は、中国、オーストラリア、インドなど。トップの中国は大規模な植林に取り組み、この10年間で約200万haも増加しています。

年平均森林面積減少国 上位10カ国

順位 国森林面積純変化
[1,000ha/年]
ブラジル-1,496
コンゴ民主共和国-1,101
インドネシア-753
アンゴラ-555
タンザニア連合共和国-421
パラグアイ-347
ミャンマー-290
カンボジア-252
ボリビア-225
10モザンピーク-223

年平均森林面積増加国 上位10カ国

順位 国 森林面積純変化
[1,000ha/年]
中国1,937
オーストラリア446
インド266
チリ149
ベトナム126
トルコ114
アメリカ合衆国108
フランス83
イタリア54
10ルーマニア41

出典:国際連合食糧農業機関(FAO)「世界森林資源評価(FRA)2020メインレポート」

へえ、努力によって森が増えている国もあるんだね。

日本でも、森は減少している?


 
じゃあ日本の森はどんな状況なの?
 
近年、日本の森林面積はほぼ横ばいですが、森林の資源量の目安となる森林蓄積(森林にある樹木の幹の体積)は年々増加しています。
出典:林野庁「森林資源の現況」
なぜ森林蓄積が増加しているの?
1940年頃の日本では、戦争のために木を伐る量が増え、森は荒れていました。終戦後、復興のために大量の木材が必要となると、政府は大規模な造林(木を植えて森林をつくること)を行う政策を進め、スギやヒノキ、カラマツ、アカマツなどがたくさん植えられました。その木が育ってきたことが、森林蓄積の増加につながっています。

 

日本の森を持続可能にするには?


 
日本の森は豊かになってきているんだね、よかった!
しかし、問題もあります。1960年代に木材輸入の自由化が始まって、価格の安い海外の木材が市場に出回るようになり、国産材がそれまでのように売れなくなってしまったのです。輸入量が増えるとともに国産材の価格は下がっていき、日本の林業は衰退してしまいました。
 
戦後に植林した森林の多くは、現在、収穫期をむかえています。しかし、人手と費用をかけて木を伐っても十分な収入を得ることができないため、伐採されずに放置されている森林も少なくありません。このまま手入れされずに森が荒れていくと、木が伸びすぎて倒れたり、土砂崩れを引き起こしたりする可能性も大きくなります。
じゃあ、日本の場合は、もっとたくさん森の木を伐ったほうがいいということ?
はい。収穫期にある木を伐り、再び苗木を植える・育てる・伐採するという林業のサイクルをしっかり回していかなくてはなりません
再び林業を活性化させるには、どうしたらいいんだろう…。
私たちが生活のなかで国産材をもっと活用していく必要があるでしょう。最近では、公共の建物や中高層建築物の木造化、木質バイオマスのエネルギー利用、付加価値の高い木材製品の輸出など、国産材の利用を拡大する動きも活発化し、2002年以降の国産材供給量は増加に転じています。今後も国産材の利用が増えていくことが期待されますね。
新国立競技場の軒庇(のきびさし)には、47都道府県から調達した⽊材が使⽤されている
木を伐りすぎることも、木を伐らないでおくことも、どちらも問題があるとは…。長く森の恵みを活用していくために、適切に木を活用していくことが大切だね!

 
 

【まとめ】
目先のことばかり考えると、木を多く伐りすぎてしまうことがあります。しかし、これでは森の恵みは絶えてしまいます。FSCでは、木材だけではないさまざまな恵みも利用ながら、適量の木を伐り、経済的にずっと活用し続けられるようにすることを大切にしています。

末永く森を活用していきたいね

次回は原則6「環境保全」について学ぼう!

監修:FSCジャパン

FSC C011851

RELATED POST関連記事