2019.1.17

「循環」というストーリーを活かした製品づくりを

株式会社日誠産業

 
以前FSC応援プロジェクトで取り上げたスターバックス コーヒー ジャパンの取り組みを覚えていますか?店舗で使用した業務用のミルクパックをペーパーナプキンにリサイクルし、FSC認証品として店舗で再利用する仕組みづくりに取り組んでいましたよね。実は、このミルクパックを再びパルプにしていた会社が今回ご紹介する日誠産業です。
 
紙パックをはじめ様々な古紙からオーダーメイドパルプを製造販売する同社。なぜFSC認証を取得したのか?そこにはどういったメリットがあったのか?認証取得を検討し、現在は営業部部長としてFSCリサイクルパルプをはじめ、サスティナブルな素材・製品の展開に携わる亀谷寿長さんにお話を伺いしました。

お話しを伺った方

営業部 部長
亀谷 寿長さん
工場での勤務や古紙の仕入れを経験し、パルプの販売を10年ほど担当してきた亀谷さん。ご自身の仕事柄、お子さんが小学1年生のときに夏休みの宿題で紙パックから手漉きはがきをつくったこともあったそう。「『紙パックからつくるってすごい!』と、学校では一躍ヒーロー的な存在になったようで、こういう話を聞くと、子どもたちにとっても良い事業をしているのかな、と思います」

海外メーカーからのオーダーがきっかけでFSC認証を取得

日誠産業が創業したのは1970年。当時から古紙を扱う古紙問屋としてスタートしました。1985年には現在の場所にリサイクルパルプ工場を建設し、紙パックをメインとしたリサイクルパルプ事業を開始しました。
「弊社の事業は主立ったところでは紙パックのリサイクルですが、他の製紙メーカーさんでは処理しにくい、溶けにくいものや内部にフィルムコーティングされているような難処理古紙も取り扱っています。また最近では広島市の平和記念公園にある『原爆の子像』の折り鶴からリサイクルパルプを作り出しています」

同社がFSC認証を取得したのは2013年。それ以前にもFSC認証については耳にしていたそうです。「弊社の製品の多くは取引先である製紙メーカーに納品していました。2007年頃にその取引先メーカーがFSC認証を取得し、その頃は営業の仕事をしていましたので、個人的な思いですが、FSCは今後必要になるのではと感じていました」と亀谷さん。

しかしながら、取得まで手間がかかる上、コストもある程度必要ということもあり、会社にとってどうプラスに働くのか、当時はまだ社内を説得できる材料を持っていなかった、と振り返ります。
「とはいえ、必要になったらいつでも動けるように審査機関に相談して準備だけは進めていました」

それから数年後、海外の製紙メーカーからリサイクルパルプの問い合わせがあり、それもFSC認証品で購入したいので、FSC認証を取得したあかつきには、これだけの数量を購入するという具体的な提案を受けたそうです。

それまで国内だけだった販売が一気に海外にも広がるチャンス。しかもリサイクルパルプのなかでも「ウェット」(※)という種類のものだったので、それが海外でも販売できるということは、同社にとっては想定外の発注でした。

事前に準備を進めていたこともあり、オーダーを受けてから2ヶ月弱でFSC認証を取得。同社で扱う古紙が紙パックをメインとしていたことで、産業資材古紙なのか市中回収古紙なのか見た目で判別がしやすかったことが認証取得につながったのでは、と振り返ります。

「それまでにも海外からのオファーはありましたが、一般的に古紙は安いものとして捉えられていたので安かったら買ってあげるよ、みたいな話が多かった。しかし私たちのリサイクルパルプは手間暇かけて処理しているので、安価なパルプではありませんでした。それがFSC認証を取ることで今までにない付加価値を付けて販売できるようになったんです」

※ウェットパルプ:パルプには乾燥した状態のドライタイプと、水分を含んだウェットタイプの2種類があります。

スターバックスとのコラボレーションへ

現在では、1ヶ月に約2000トンのパルプを製造し、そのうち約70%をFSCのリサイクルパルプとして供給しています。FSC認証を取得したことで、改めてそのメリットの高さを実感したと亀谷さんは語ります。
「FSC認証を取っているというだけで、企業としての信頼度が高くなりますし、海外メーカーにとっては、トレーサビリティが確保されて現地調査が不要な分、手間が省けるというのもメリットのようです」

同社のリサイクルパルプ(写真手前)とリサイクルパルプを使用した製品(「エコプロ2018」同社出展ブースにて撮影)

冒頭でもご紹介しましたが、スターバックスでは、店内で出た使用済みミルクパックをペーパーナプキンへリサイクルする取り組みがあります。その紙パックからリサイクルパルプを製造しているのが同社なのです(「自然由来のもの」を扱う企業だからこそ取り組む環境活動(スターバックス コーヒー ジャパン株式会社))。

「弊社で提供しているパルプはいわば『素材の素材』、縁の下の力持ち的な存在だと思いますが、FSC認証を取得したことで、自分たちでも積極的に活動を広げるようになりました。スターバックスさんの場合は、『製紙メーカーでもFSC認証を取得すれば、ミルクパックだけでFSC認証品ができますよ』と働きかけ、ミルクパックからペーパーナプキンへ再生する循環型リサイクルが実現。最近ではペーパーナプキンにFSCマークが入ったんですよ」

「もしかしたら、この取り組みで一番良い影響を受けたのは弊社の社員かもしれません」と亀谷さん。

社員の中には、紙パックのリサイクルという環境に貢献する仕事であるとは理解しているものの、自分たちが作り出したリサイクルパルプがどのような製品になっているのかピンと来てないところもあったそうです。実際にスターバックスの店舗に行って現物を見ることで、「日本にたくさんある有名なコーヒーチェーンのペーパーナプキンの材料を自分たちがつくっている、それもFSC認証を取っているからできた」ということを実感し、意識的に変化が見られたといいます。

「循環型リサイクル」というストーリーを見える形で構築する

FSCリサイクルパルプを使用したスターバックスのペーパーナプキンとDNPのコースター

最近では、大日本印刷(以下DNP)と資源循環システム構築の共同プロジェクトとして、FSCリサイクル認証コースターを製品化しました。これはDNPの工場から出る産業古紙を同社でパルプ化し、DNPでコースターとして再製品化するものです。このコースターは全国のDNPで社内利用しているそうです。

亀谷さんは「自分たちで使ったものをもう一度リサイクルしてまた自分たちで使う。こういった循環を一つのストーリーとして目に見る形で構築することに意味があると思っています」と語ります。

「何よりお客さまにも説明できるし、自分たちのやっていることに意味があると実感できる。こうした取り組みを知った他の企業から『うちでもやりたい』という声をいただくこともあります」

「弊社の工場の近くには1日で約1000トン製造する大手製紙工場もあります。弊社は1ヶ月で約2000トンですから数量ではとてもかなわない。しかし、FSCという付加価値を付けて、環境へ貢献できるものであれば、単純なコストの話にはならない。私たちにも勝機はあると思っています」

さらに同社ではリサイクルパルプの製造だけに限らず、それを使った製品開発までを手がけるCamino(カミーノ)という別会社を立ち上げました。FSC認証紙だけでなく、広島の平和記念公園に捧げられた折り鶴からリサイクルパルプをつくり、海外の大手自動車会社のノベルティをつくったり、再生繊維から衣類などのファッションアイテムがつくるなど、製品の幅は広がっています。

折り鶴からの再生パルプで作られたうちわ。「PEACE」と描かれたうちわは広島の平和記念式典で来賓用記念品として採用された

折り鶴からの再生パルプで作られたうちわ。「PEACE」と描かれたうちわは広島の平和記念式典で来賓用記念品として採用された

折り鶴のリサイクルパルプからレーヨンが作られ、手ぬぐいなどの布製品にも使われている

「広島の折り鶴には「平和」というメッセージが込められていますし、FSCには国際的に信用された環境認証ということで信頼性が高い。 素材メーカーだからこそ、弊社ではいろいろなものが提供できる。これからも循環というストーリーを生かした製品づくりをしていきたいと思います」

株式会社日誠産業
徳島県阿南市津乃峰町新浜33-10
http://www.nissey.net/

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