FSC製品を含め、環境に配慮した物を選ぶことも最も有効な「森の保全活動」の一つですが、もっと直接関わって森を元気にできたらどんなにステキでしょう。そんな夢を実践している庭山一郎さんは東京在住のビジネスマン。週末だけ赤城山麓の「シンフォニーの森」に通い、四季折々の自然を満喫しながら森仕事に励んでいます。
雨の多い季節も「晴れの日とはまた違った森の表情がある」と庭山さん。しっとりと濡れた森は美しく、いつも以上に静か。コテージで本を読んだり、雨の森を散策したりするのも楽しみだといいます。
森を潤す雨に癒やされ、コテージで音楽&読書三昧
新緑が始まった森に霧のような雨が降っています。しっとりと森が潤い、大地に水が染み透るのが感じられます。
霧雨で真っ白にけぶる森の中は、本当に幻想的です。雨の森に籠もっていると、まるで井伏鱒二の名作「山椒魚」に出てきた、山奥の滝壺に棲む大きな魚になったように感じられます。
山椒魚はつぶやきます。「あぁ、寒い程ひとりぼっちだ」ーー新緑の森に雨が降り、その澄んだ水底にあるかのようなコテージで、雨と霧の森を眺めながらウイリアム・アッカーマンのギターを聴いています。
急に雷の音がして、雨が一瞬止んだと思ったら、次はどしゃぶりの雨です。テラスでは、雨粒が跳ね回り、雨音がギターの音を消してしまいます。
山の天気は本当に気まぐれです。穏やかな霧雨から一転、屋根からは大量の水が流れ落ち、
まるで嵐のようになってきました。
そんなときはふたたび窓を閉めて部屋に戻り、今度は読書です。晴耕雨読とはよく言ったもの。私の場合は、草刈りや伐採をお休みするので、さしずめ「晴伐雨読」といったところでしょうか。
ちょうど1冊読み終えた頃、窓の外が少し明るくなって、ようやく小降りになってきました。薄日が差し、遠くで小鳥の声がします。長靴を履いて、散策に出かけてみましょう。
豊かな森の林床は雨水を溜め込む「自然のダム」
人間にとって梅雨は何ともうっとうしい季節ですが、植物にとっては良い季節のようで、森のどこを見渡してもイキイキしています。
森の地面の事を林学では林床(りんしょう)と呼びますが、シダとドクダミできれいに覆われていて土がどこにも見えません。手入れの悪い森だと林床に陽光が届かず、夏でも茶色なのですが、この森はちゃんと間伐や枝打ちをしているので、ご覧の通りです。「Wood job!」と自分をほめてあげたいです(笑)。
大雨が降ったあとなので、道路やあぜ道は川のように水が流れています。手入れがされていない放置された暗い杉の林でも土の上を幾筋もの水が流れています。
一方、健康な森では、様々な種類の落葉が幾層にも重なったスポンジ状の林床が水を蓄えてくれるので、地表を水が流れることはほとんどありません。多様な植物がしっかり根を張り、落葉が積もった健康な森では山崩れはめったに起こらないといいます。手入れを始めて26年で、私の森も見違えるほど健康になりました。100年後が楽しみです。
そして、林床からじわじわと染み出した水は、コテージの東側を流れる小さな沢に集まります。風水では、家の左方(東)に流水のあることを「青龍(せいりょう)」と呼び、災難から守ってくれるといわれています。とはいえ、まだまだ赤ちゃん竜という印象ですけれど。
小さいながらも、我が青龍は年間を通して水量が変わらず、村の古老によると「坪穴沢(つぼあなさわ)」という名前がちゃんとついているそうです。この沢はやがて荒砥川(あらとがわ)となり、それは伊勢崎の辺りで広瀬川と合流し、やがて太田の南で利根川に注ぎます。そして遥か下流で大河となり銚子から太平洋へとつながっていくのですね。
ここに流れる水はいずれ関東地方の農業用水や飲料水になるのでしょう。その前に、清らかな沢の水をひとすくい。森の枯れ枝や木の実を焚き付けにしてお湯を沸かし、蔵前の焙煎ショップで挽いてもらったコーヒー豆を挽いて、ハンドドリップで淹れていきます。私にとって一番贅沢なカフェはこの沢のほとりなのです。
さて、さらに空が明るくなってきました。新緑が輝き、キビタキやオオルリが鳴き交わしています。これだけしっかり降って、大地がたっぷり水を含んだところに、温かい日差しが差し込むと、一気に森の木々が葉を広げようとしているのを感じます。
森を潤し、木々を育て、生き物を育てる雨の恵み。その雨が、私たちの生活にもつながっているのを実感します。いつかこの沢からはじまる流れに沿って、千葉県の銚子の河口まで、歩いて旅をしてみたいと思っています。
庭山一郎さんプロフィール
1990年にシンフォニーマーケティング株式会社を設立。BtoBマーケティングに関するプロジェクトを数多く手がけ、セミナー講師や執筆などにも積極的に取り組んでいます。プライベートでは、小学生から日本野鳥の会のメンバーとして活動するなど、筋金入りのアウトドア派。赤城山麓に森を購入し、「シンフォニーの森」と名付けて森林再生活動を行い、ライフワークとしています。本連載ではその取り組みの様子や個人でできる森再生のヒントとともに、赤城山麓の四季折々の美しい自然の姿を紹介します。
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