2025.7.25
技術を武器に「今までにないモノ」を創り出す
世界をターゲットに見据えFSC認証紙を採用
エステック「ペーパーグッズ」
- 精密プレスや印刷などの高い技術を駆使し、高付加価値なモノづくりに挑む株式会社エステック。幅広い分野に高品質な部品を提供するだけでなく、2021年頃より「紙歯ブラシ」や「紙靴べら」などの紙製の独自製品の開発にも取り組んでいます。その原材料としてFSC認証紙を選んだ理由、モノづくりへの思いや今後の展開などについて、同社代表取締役社長の坂本学さん、取締役CSOの大村凌さんに伺いました。
お話しを伺った方
- 右:株式会社エステック 代表取締役社長 坂本学さん、左:取締役CSO 大村凌さん
- 「サウナが好きで、ハットやマットなどのグッズも自社開発しています。国産広葉樹を自社工場で加工した薪を使った『薪サウナカー』のレンタルも始めました。芳醇な木の香りと柔らかな熱に包まれていると心身が癒やされて、改めて人間には森や木が必要だと感じます」
世界に通用する、自社製オリジナル商品をFSC認証紙で開発
2014年に創業し、埼玉県和光市に本社を構えるエステック。代表の坂本さんが、前職の機械メーカーで得た知見や技術を活かし、フィルムや紙、スポンジなどを加工する会社として立ち上げました。最先端の加工技術を駆使した高品質・高付加価値なモノづくりで、今や医療機器や自動車など様々な業界で多くの顧客を獲得しています。
順調に事業を拡大してきましたが、2020年からのコロナ禍を受けて、受注だけに頼らずに自社のオリジナル製品を開発しようと一念発起。まず目をつけたのは、坂本さんがアイスクリームを食べていた時に手に取った、プラスチック製スプーンからの置き換えでした。

「脱プラスチックは社会の課題とはいえ、人は便利さをなかなか手放せません。サステナブルな資源に置き換えようとしても、使い勝手が悪いと元に戻ってしまう。それなら今以上に使い勝手が良くて魅力的なモノがあれば、自然と置き換えが進むと考えたんです。そこで私たちが得意とするプレス技術を使って、紙製のスプーンを作れないかと考えました。紙は再生可能な資源であり、曲げると強度が増す性質があります。さらに軽さや耐久性、持ちやすさや口あたりなどの機能性に加え、かっこいいデザインにもこだわって開発しました」(坂本さん)

「やるからには当社にしか作れないものを開発して世界に売っていきたい。そのためには厳しい欧州の基準※までクリアする必要があり、プラスチックを紙に置き換えただけでは不十分でした。いろいろ調査する中で、国際認証であるFSC認証紙を使い、自社も認証を取ることで基準をクリアできるとわかり、認証審査会社のアミタさんの支援のもとFSCのCoC認証を取得することにしたんです」(坂本さん)
※CSRD(Corporate Sustainability Reporting Directive):企業サステナビリティ報告指令。自社の事業やサプライチェーンにおける人権や環境への影響を数値化し報告することを義務付けるもの。
着想を得てから足掛け3年の試行錯誤を重ね、認証取得とほぼ同時期の2023年に、エステックオリジナルの紙製スプーンを完成させました。軽くて扱いやすく、食材をしっかり捉えられ、手になじむスマートなルックスにも大満足という出来栄え。カトラリーシリーズとしてフォークやナイフなども開発し、三菱製紙の紙製バリア包装材「バリコート」で包装しました。「バリコート」もFSC認証紙であり、酸素や水蒸気の透過防止性能はプラスチックフィルムと同等ながら、生分解性に優れ、リサイクルできるという紙の特性を活かしています。
「紙だから、使い捨てだからといって、適当でいい、安ければいいとは思いません。エステックの紙製スプーンはカチカチに凍ったアイスクリームを食べられるほど強度があり、丈夫で何度も使えて、最後はリサイクルやコンポスト廃棄もできる。しっかりつくられたモノとして一生を全うさせてほしいんです。FSCにも込められた、『森の資源を大切に使おう』という思いを共有してもらえる人や会社に選んでいただければと思っています」(坂本さん)
自社製品としての矜持を持って、新たな価値の創造に取り組む
熱い思いと高い技術力をもってFSC認証紙で作られたエステックの紙製カトラリーは、現在、日本航空グループ傘下のZIP AIRの機内食や都内のカフェなどに採用されています。そのご縁もあって、日本航空からは紙製歯ブラシのリクエストが寄せられ、開発に挑むことになりました。
「既に製造工程がわかるものなので作ること自体は簡単でした。でも、ちょっとしたバリ(出っ張りやギザギザ)や紙の層を消すなど、気になるところをブラッシュアップすることで、使い勝手がグッと良くなる。それが楽しいんです。スタッフの方から、女性や子どもが使いやすいようにもっと小さなヘッドにしてほしいとリクエストがあったときも喜んで改良しました。そうやってユーザーさんとの協業の中でいいものができると、作り手冥利に尽きますね」(坂本さん)

2024年春には、世界初ともいわれる「紙製歯ブラシ」の製造・販売を開始。リクエストのあった日本航空はもちろん、国内のホテルなどにも採用され、好評を博しています。他にも、地肌へのあたりが滑らかな櫛や、分解して持ち運びができるハンガー、土に還る農業用のクリップ、絶妙なカーブで使いやすい靴べらなど、次々とオリジナルの紙製品を開発してきました。さらに印刷加工を手掛けていることもあり、ノベルティ事業やOEM事業などにも展開しています。


「振り返ってみると、自社製品の開発につながるきっかけは3つあります。『紙で作れないか』という技術屋としての発想、ユーザーさんからのリクエスト、そして紙屋さんからの『この紙を使えないか』という相談です。ただリソースは限られるので、その中から『今の世の中にないもの』『他社には作れないもの』を意識して、取り組むものを丁寧に選んでいます。何でも受けるというスタンスをとらないのは、自社ブランドを冠した製品に誇りを持っていたいからです。たとえちょっと高くなっても、利益がほとんど出なくても、いいものを作りたいし、挑戦したいと考えています」(坂本さん)
実際、カトラリーなどの製造では、厚い紙の1枚ずつから型を抜き出す必要があり、ロール状の紙から連続的に切り出すよりも割高になりがちだといいます。さらに機械の力加減や歯をいれる方向など、絶妙に調整した機械やノウハウが必要とされ、大量生産の難しさも課題です。しかし、手間を惜しまずに研究と工夫を重ねることで、紙のポテンシャルを引き出し、単なる脱プラスチック製品ではなく「紙ならではの価値ある製品」へと昇華させることができました。
単なる置き換えではない、”紙ならでは”の価値を
エステックの特許技術でさらに活かしていく
そんなエステックが、次なる開発対象として挑んでいるのが「アイスクリームの棒」です。一見すると何の変哲のない、シンプルな紙の棒ですが、エステックが特許を取得したという技術の塊だといいます。
「原材料は紙を芯にして表面をセルロースで固めた特殊な厚紙で、口の中に入れるものに使用できる許可を得たものです。通常、これを使ってアイスの棒を作ろうとすれば、通常は片側から抜き型を当てますが、当社では上下から当てているんです。そうすることで両方の角が丸くなり、口に入れても滑らかに感じられるというわけです」(大村さん)

確かに棒の側面を触ってみると滑らかで角がなく、口の中に入れても違和感がありません。これならアイスクリームも美味しくいただけそうです。

エステックの特許技術で作られています。

「抜き型の上下の歯の当たりを調節し、わずか3ミクロンの寸止めにすることで”バリ”を真ん中に集め、端を丸くすることに成功しています。この時、歯同士が当たると抜き型が壊れてしまうので、本当に繊細な技術なんですよ。髪の毛が40ミクロン程度なので、どれほどギリギリなのか想像いただけるでしょう。現在のエステックの技術力を結集したイチオシ商品といっても過言ではありません」と大村さんは胸を張ります。
さらにこの技術は、アイス菓子のピックや医療現場で使用される舌圧子などにも応用され、既に多方面から引き合いがきています。採用されれば、何十万、何百万本という生産力が求められるため、同業者に機械や加工技術などの提供を進め、量産体制を整えつつあるといいます。
「加工事業者といえば、縁の下の力持ちとして、やや地味な存在と思われているかもしれません。でも、連携して社会をより良い方向へ変えるものを作ることで、モノづくりの底力を見せつけ、存在感をアピールしたい。その起点の1つになれたらと思っています」(坂本さん)

そして、「社会を変える」という意味では、脱プラスチックという価値だけでなく、「紙の性質や強みを活かした”これまでにない新しい価値”を提供したい」といいます。
「今後は丁寧に製品のラインナップを増やしつつ、当初から構想していた世界展開にも挑戦していきたいと思っています。その時も、紙なら何でもよいわけではなく、サステナブルな資源として証明されている必要があります。だからこそ、FSC認証を選ぶことが『サステナブルなモノづくり』を実践する者としての証明になり、自信につながると考えています」(坂本さん)。
確かな技術から生み出される製品に、FSC認証という信頼性が加わり、世界展開への準備は万全といえるでしょう。そう遠くない日に、海外旅行先でエステックの製品に遭遇するかもしれませんね。
-
- 株式会社エステック
- https://stec-ps.com/
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