2024.4.30
日本初FSC CoC認証取得の矜持を胸に
森を含めた「紙のエコシステム化」に取り組む
三菱製紙 FSC認証紙の普及を目指して
- 三菱製紙は2001年に国内の製紙工場としては初めてFSC認証(CoC認証)を取得。グループ全ての紙生産拠点へと展開し、FSC製品の種類を拡大してきました。そして今、国を中心に環境配慮製品の調達を推進する「グリーン購入法」の印刷用紙にバージンパルプ製のFSC森林認証紙も認定され、改めて環境配慮紙を推進する製紙メーカーとしての存在感が高まっています。同社の取り組みの経緯、グリーン購入の背景やニーズの高まり、そして今後の展望について、紙素材事業部紙素材営業部の田中俊有さんにお話を伺いました。
お話しを伺った方
- 三菱製紙株式会社
- 紙素材事業部 紙素材営業部 田中俊有さん
- 研究室で印刷用紙の開発に10年携わり、その後、営業職として紙素材の技術サービス全般を担当。「初めてFSC認証紙を社内に紹介したときは、『本当にエコなの?』と心配されました。今や多くの方に認知され、時代の変化を感じています」
日本におけるFSC森林認証紙の安定供給を目指して
三菱製紙のFSC森林認証との出会いは1990年代後半。熱帯雨林の急激な木材伐採が問題視され、欧米で不買運動が高まる中、適切に管理された森林からの木材を区別して購入できる国際認証として1994年にFSC(Forest Stewardship Council、森林管理協議会)が設立し、その直後のことでした。
「三菱製紙グループでは、高品質なバージンパルプ紙を中心に製造・販売を行なってきましたが、環境意識が高まる中、『バージンパルプだけの紙=環境破壊』というイメージが先行するようになり、社会・環境・経済面に配慮した『責任ある調達』を証明する必要性を感じていました。ちょうどその頃にFSCが設立されたことを知り、その考え方やシステムに強く共感した当時の経営層が認証取得にGOサインを出したのです」(田中さん)
しかし、苦労して2001年にチリの社有林、2002年に八戸工場(青森県八戸市)でCoC認証を取得し、FSC認証紙の製造を開始しようとしても、世の中のの認知はゼロに等しい状態。そこで、販社である三菱製紙販売(現:三菱王子紙販売)とともに、「FSC認証の価値」を説明しながら営業活動を行なっていきました。
「当初、バージンパルプ製品について積極的に環境商品を使おうというお客様は、なかなかいらっしゃらなかったですね。紙の品質は認めてくださっても、マークをつけるのに手間と費用がかかるし、かといって消費者も気に留めない。ある意味、紙そのものというより、FSCの理念や考え方を紹介しているようでした」(田中さん)
まずは自社からFSC認証紙の置き換えに取り組み、2003年には三菱グループの広報誌に採用。さらに、地道な営業活動によって社内外に理解・賛同を得ると同時に、採用量も増えていきました。
当時は、まだクレジット方式になっておらず、実配合方式しか認められていませんでした。原料のFSC認証された木材チップが工場に届き、パルプになったものが抄紙機に供給されてから要望された銘柄の生産に入るため、認証チップの入荷スケジュールと用紙の生産スケジュールの調整に苦労しながらFSC認証紙を生産していました。さらに、印刷所などもCoC認証を取る必要があります。顧客企業と印刷会社の両方に対して交渉・調整をしながらマークが付けられる環境をつくっていきました。
「どんなに環境配慮をしている紙でも使ってもらわなければ意味がありません。製紙会社として紙の安定供給に努め、印刷会社などにも働きかけ、FSCを広げるための環境をつくっていく。日本におけるFSC普及において、ユーザー企業様、印刷会社様のなどの多大なご支援ご協力があって今があると考えています」
非再生紙のFSC認証紙が「グリーン購入」の認定製品に
日本における環境意識の高まりと共に、FSC認証紙も認知されるようになり、様々な製品にFSC認証紙が使われるようになってきました。そして、2023年12月の閣議決定により、古紙パルプ配合率の基準を満たした再生紙だけでなく、バージンパルプだけで生産したFSC認証紙も「グリーン購入法」の適合商品として認定されることになりました。これにより、国や自治体などを中心に、印刷物用紙としてFSC認証紙が採用される可能性が高まり、学校や企業などにも広がると予想されています。
※「グリーン購入法」について(PDF)
https://www.env.go.jp/policy/hozen/green/attach/gpp%20pamphlet_jpn.pdf
「グリーン購入法は、国等の特定調達物品等の調達に関わる法律で、これまで紙については資源循環と古紙の優先利用の考えから再生紙のみが認定されていました。しかし、デジタル化などによる紙の流通量の落ち込みによって、再生紙の原料となる古紙が不足するなど、市場で適合品の再生紙(印刷用紙)が入手しにくくなっていました。グリーン購入法が出来た当時から紙や原料となる木材を取り巻く環境は変化し、資源循環に加え、森林の持続可能性、生物多様性等の配慮も求められるようになり、そこで、再生紙だけでなく環境に配慮された印刷⽤紙を普及・促進させるという考えから、従来の再生紙に加えて環境に配慮しながら調達したバージンパルプから作られたFSC認証紙も印刷用紙の認定品に加えられています」(田中さん)
もともと紙のリサイクルは、「カスケード利用」と言われる再生の度に強度・白度の低い紙へとグレードダウンさせていく利用が理想です。紙不足の中、再生紙で無理にグレードを上げようとすると過度な漂白剤や紙力剤が必要になります。紙の生産・活用サイクルを健全に回していくには、再生紙とバージンパルプ品を適材適所で使い分けることが理想です。
「もともと三菱製紙では、古紙のリサイクルを中心とした『紙のサイクル』に加えて、森から原材料を調達して利用する『森のサイクル』を”健全に”回していくことが重要と考えてきました。その実現のためには、環境に配慮して原料を調達するだけでなく、その結果、生み出された経済的価値を直接的に森に還元することが必要です。FSCが実現するのはまさにそうした”エコシステム”であり、グリーン購入法の認定によって、改めてその価値や実効性が認められたものと捉えています。」(田中さん)
高い技術力を活かし、FSC認証の新たなクラフト紙を開発
FSC認証紙にいち早く取り組み、様々な製品を提供してきた三菱製紙。特に品質の高さには定評があり、「ニューVマット」などはマットコート紙の最高ブランドとして、多くの企業のカタログやパンフレットなどに採用されています。
そして、今最もFSCマークが目立つものといえば、商品のパッケージでしょう。海外に比べてまだ少ないとはいえ、数年前に比べて、お店でFSCマークのついた商品を見かけることが増えてきました。脱プラスチックなどの社会的背景もあり、紙パッケージへの置き換えはさらに進む傾向があります。そうしたニーズを受けて、三菱製紙でも高級紙・特殊紙で培った高い技術を活かし、FSC認証の新たなクラフト紙を開発し、提供を開始しました。
「紙パッケージ用のクラフト紙は、従来のプラスチックに比べて印刷時の色調整が難しく、くすんだ印象になりがちでした。しかし、パッケージはやっぱり見た目が勝負。紙にプラスチックコートをかけて印刷の彩度をあげる方法もありますが、紙パッケージにこだわりたいというニーズも多くあります。そこで三菱製紙では独自の技術により、印刷の鮮明性を高められるクラフト紙を開発し、環境配慮と商品の魅力の向上の両者を叶えるものとして、大変好評を得ています。2023年秋頃から有名菓子ブランドに採用されているので、『あれ?なんだかこの商品、前よりパッケージがきれいになったかも?』と気づかれた方もいらっしゃるかもしれませんね」
FSCおよび森林保全の語り部として、一般向けにも情報を発信
今後は、さらにFSC認証紙なども含め、紙の開発・供給を通じて、脱プラスチックなどの社会課題解決にも取り組み、環境保全や循環型社会の構築に貢献していくといいます。そして、一般消費者に向けても、森の大切さや紙の持続可能性を伝えるために、様々な取り組みを実施しています。
「本サイト『FSC応援プロジェクト』も、関連会社の三菱王子紙販売が運営しており、ニュートラルな立場からFSCの考え方や様々な取り組みなどについて情報を発信してきました。また、『白河甲子の森』にある社有林(FSC FM認証取得)で行っている『エコシステムアカデミー』でも、一般向けに森の恵みや紙づくりを体験・学習できるツアーを開始しました。より多くの方にFSCや森林保全のあり方などについて理解を深めていただければと思っています」(田中さん)
- 三菱製紙株式会社
- https://www.mpm.co.jp/
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