2023.3.30

FSC認証材も活用し、飲食業界の食品ロス削減を牽引

セブン&アイ・フードシステムズ「デニーズ」

「mottECO(モッテコ)」とは、飲食店で食べきれなかった料理を自己責任において持ち帰る、環境省が推奨する食品ロス削減アクションです。ファミリーレストランの「デニーズ」を展開する株式会社セブン&アイ・フードシステムズは、競合関係を超えたパートナーシップにより、FSC認証紙を使用した持ち帰り容器を開発し、各店舗へのmottECO導入を推進してきました。取り組みの経緯や反響などについて、mottECO事業推進を担当する中上さんに伺いました。

お話しを伺った方

株式会社セブン&アイ・フードシステムズ 総務部 サステナビリティ推進環境部会長
中上冨之さん
環境カウンセラー、JRCA認定環境マネジメントシステム審査員補、環境マスターなど環境系資格を多数もち、社内の環境対策を推進。2021年12月にはFSCジャパン開催「責任ある森林管理のための勉強会 第3回」で同社のFSC認証材活用事例を発表。

さまざまな廃棄物削減のなかで、食べ残し対策にも着手

ファミリーレストラン「デニーズ」を展開するセブン&アイ・フードシステムズ。同社はこれまで、山梨県と森林の保全や利活用などに関する連携協定を締結して県内店舗における山梨県産のFSC認証紙のストローを使用するなど、FSC認証材の活用に積極的に取り組んできました。

そんな同社は、近年力を入れている食品ロス削減の取り組みにおいても、FSC認証材を活用しています。

食品ロスとは、本来食べられるのに廃棄されている食品のこと。食品ロスの発生によって貴重な食料が無駄になるほか、その廃棄にコストがかかることやCO2排出につながることが問題になっています。令和2年度推計によると、国内の外食産業では年間約81万トンの食品ロスが発生しています(農林水産省『食品ロス及びリサイクルをめぐる情勢』令和5年1月時点版)。

デニーズで食品ロス削減に取り組み始めた経緯について、担当者の中上冨之さんはこう話します。

「2019年に食品ロス削減推進法が施行されたことを機に、我々は何ができるのかを本格的に考え始めました。まず、店舗で発生する食品廃棄物の分析を行い、できることから取り組んでいきました」

分析により、店舗から出る廃棄物は大きく3種類あることがわかったといいます。1つめは調理場で発生する廃棄物で、仕入れや調理方法など運用システムによって、この5年間で廃棄量を約2割削減するまでになりました。2つめはコーヒーかすで、削減は難しいため、乳牛の飼料として活用し、生産された牛乳を店舗の料理に使うというリサイクルループの仕組みを整備しました。残る3つめは、お客様の食べ残しです。

「大前提として、食べ切っていただきたい、というのが飲食店の思いです。やむを得ず食べ残したものも持ち帰って召し上がっていただきたい。ただ、そこには様々な食品衛生上のリスクが懸念されますから、非常に難しい部分です。しかし、店舗でのこれ以上の食品廃棄物削減には、やはり食べ残し対策に着手するしかありません。そこで、プラスチックを使わないお持ち帰り専用容器の使用によって、食品ロス削減と脱プラスチックを両立する、しっかりした仕組みをつくろうと取り組み始めました」(中上さん、以下同)

競合他社と連携しmottECO事業を推進。FSC認証材活用へ

社会への影響力を考えると、なるべく多くの飲食店で持ち帰りが可能となるほうが効果的です。そこで同社は、ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」運営会社を傘下にもつロイヤルホールディングスに提案し、連携して食べ残しの持ち帰りを推進することに。

「デニーズにとってロイヤルホストは競合関係にあるといえますが、競合だからこそ一緒に取り組むと業界へのインパクトは大きくなると考えました。一緒にやりませんかと声を掛けたら、快く受けていただけました」

さらに、環境省の施策との連動も図りました。当時、環境省は食品ロス削減の一環として、飲食店で食べきれなかった料理を自己責任において持ち帰るアクションについて「mottECO」と命名し、ロゴの作成にも取り組んでいました。その普及のためのモデル事業として、2社が専用容器を開発し、各社店舗で活用を広げていくこととなったのです。

「もっとエコ」と「持って帰ろう」という
メッセージが込められている「mottECO」

2022年度には、和食のファミリーレストラン「さと」を運営するSRSホールディングスと、首都圏を中心にホテルを展開する日本ホテルも仲間に加わり、計4社で「mottECO普及推進コンソーシアム」を設立。業種業態を超えたアライアンスによって、容器などの共同調達スキームの構築や、mottECO実践店舗の拡大などに取り組んできました。

同コンソーシアムで開発した持ち帰り専用容器には、FSC認証紙が採用されました。

「プラスチックに代わる素材として紙は1つの選択肢ですが、紙なら何でもいいわけではありません。取り組みの目的が“持続可能性”ですから、その点が担保された素材であることを重視して、FSC認証紙の採用を決めました。容器にFSC認証のラベルを付けることができるので、mottECOは環境に配慮した取り組みであるということが、より伝わりやすいと思います」

ほかにも、空気層を含む薄い段ボール紙を使用して保温・保冷の効果を高め、結着部分を極力減らすことで液漏れにも配慮するなど、さまざまな工夫がなされています。大きさも検討を重ね、汎用的なエコバッグに収まるサイズとしました。

mottECO容器の前面にFSCマーク

当初目標を300%達成。急拡大するmottECOの取り組み

同コンソーシアムでは、各社ともまずは少数店舗からmottECO事業を始め、お客様の反応を見極めながら拡大を図ることとしました。導入店舗では、持ち帰りをしたお客様を対象にWebアンケートを実施。食べ残しの持ち帰りをした理由や、持ち帰った商品をどの程度食べたか、また、mottECO普及・啓発に関する意見などについて聞きました。

「アンケート結果からは大きな手応えを感じました。持ち帰った商品はご自宅等で99%召し上がっていただいており、mottECOご利用分がそのまま廃棄物削減につながったと考えられます。また、これまでは『食べ残しを持ち帰りたい』と言いにくかったけれど、店舗側が専用容器を用意し推奨したことで、非常に頼みやすくなったという声が多いですね。しかも、FSC認証紙という環境に配慮した容器ということで、よく考えられた仕組みだというご意見もいただいています」

mottECO実施店舗数は、各社が状況に応じて段階的に拡大しています。デニーズでは2022年4月時点での実施は東京都内100店舗のみでしたが、同年12月には全店舗に拡大しました。コンソーシアム全体では2022年度当初、「年度末に250店舗実施」という目標を設定しましたが、各社が計画を大きく上回るペースで取り組み、最終的には750店舗実施と、当初目標比300%を達成しました。実績に基づく推計によると、2022年度は4社で年47トン以上の食品ロス削減につながったことになります。

「1社に導入ペースを速める動きがあると、他社も触発されて目標の上方修正が相次ぎ、拡大が加速していきました。各社が刺激し合えるコンソーシアムならではの相乗効果だと感じます」

また、同コンソーシアムは食品ロス削減に関する啓発活動にも取り組んでいます。中上さんも、大学や高校、中学校などの教育機関で講義を行ったり、SDGsに取り組む企業や団体のセミナーに登壇したり、積極的に活動してきました。

こうした一連の取り組みが高く評価され、2022年食品ロス削減全国大会において環境省、消費者庁より同コンソーシアムに「食品ロス削減推進表彰審査委員会委員長賞」が授与されました。

食品ロス削減推進表彰審査委員会委員長賞受賞の様子

「食べ残しは持ち帰る」が当たり前になる社会へ

開発したmottECO容器について、中上さんにコンソーシアム以外の企業からの問い合わせが多数入っているといいます。最近では自治体から相談される例もあり、自治体主導で個人経営の飲食店を含む地域一体にmottECOが広がっていくことが期待されます。

「環境に配慮した容器ですので、他社・他店でも使い勝手が良いのではないかと思います。あえてコンソーシアム4社のロゴは入れず、汎用性も高めています。食べ残し対策を何から始めていいかわからないという飲食店も、こうして『形』として環境に配慮した容器があることで取り組みを始めやすいのではないでしょうか」

4社での取り組みによる数字上の実績は、社会全体からするとまだわずかですが、「それでも取り組んでいる価値は大きい」と中上さん。

「mottECOというネーミングやロゴ、容器などを一体の仕組みとして提供していくことで、食べ残しはもったいないという感覚が浸透し、食べ残したら持ち帰ることが当たり前になっていく効果があると思います。ただ、持ち帰りを増やすのが目的ではなく、目指すのは誰も食べ残しをしなくなる社会です」

そう中上さんが語る社会の実現には、私たち飲食店利用者の意識改革も必要です。食品ロスの問題について一人ひとりができることを考え、行動していくことが、いずれ社会全体の潮流となっていくでしょう。


株式会社セブン&アイ・フードシステムズ
https://www.7andi-fs.co.jp/7fs/company/

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