「人と自然が調和する世界」へ思いを込め、FSC認証紙製のパンダ型「だるま」を制作
WWFジャパンが創立50周年を記念して制作した「パンだるま」。福島県・白河の伝統工芸品「白河だるま」で、WWFのロゴマークであるパンダを表現したユニークな作品です。FSC認証紙を原料とした製造を「三菱製紙エコシステムアカデミー」と「白河だるま総本舗」が担い、紙卸の「市瀬」が販売元として流通に関わるなど、各社の連携によって実現することができました。「パンだるま」に込められたそれぞれの思い、そして完成するまでの経緯について、WWFジャパンをはじめ関係者がオンラインで集まり、語り合いました。
WWFのパンダが、300年の歴史を持つ「白河だるま」に!
ーーまずはWWFジャパンと「パンだるま」について、そして商品化に至った経緯についてご紹介いただけますか。
梶川さん(WWFジャパン):
WWFジャパンは、世界100カ国以上で活動する、世界的な環境保護団体「WWF」の一員として1971年に設立されました。2021年に50周年を迎えることになり、その記念商品の1つとして制作したのが、『パンだるま』です。福島県白河で創業300年の歴史を持つ「白河だるま総本舗」さんにご依頼して、WWFのパンダロゴをモチーフに、赤ちゃんを抱っこした親子パンダと、一回り小さいこどもパンダの2種類をつくっていただきました。WWFも普及に力を入れているFSC認証紙をモールド(型)の材料に使用した「FSC認証製品」です。
梶川さん(WWFジャパン):
誕生のきっかけは、制作・販売の代理店である株式会社市瀬の三澤さんと情報交換をする中で、「FSC認証紙の白河だるま」を紹介されたことです。歴史ある伝統工芸品が、国際認証であるFSC認証紙を採用していることに驚きました。FSC認証のオリジナル商品はいろいろと作ってきましたが、この時は七転び八起きの”だるま”という縁起物であることから、ちょうど2021年に迎える創立50周年の記念品に最適なのではないかと思いました。
三澤さん(市瀬):
私が初めて「FSC認証紙の白河だるま」を見かけたのは、2018年のエコプロでした。以前からFSC認証製品は意識していましたが、その中でもすごくインパクトがあって印象に残っていました。それで2年ほど経ってから、WWFジャパンさんに新商品開発の一つとしてご提案したところ、たいへん興味を持っていただき、素材のFSC認証紙を提供している三菱製紙さんにも後押しいただいて、その後はトントン拍子に進んでいきました。
FSC認証紙の古紙利用による「FSC認証 白河だるま」がきっかけ
長田さん(三菱製紙エコシステムアカデミー):
三澤さんにご覧いただいたのは、2018年の7月20日にFSC認証を取得した「白河だるま FSC認証」だと思います。三菱製紙は2001年にFSC認証を取得しています。その中で、白河サイト内で印刷していたFSC認証紙の印刷物は古紙としてリサイクルしていましたが、感熱紙や感圧紙などFSC認証紙であっても通常の古紙に混ぜられない紙についてはリサイクルできない状況にありました。そこで、これらすべてを有効に活用できないかと、エコシステムアカデミーで活用方法を検討し、白河だるま総本舗の渡辺さんにご提案したところ、FSCの循環型社会への取り組みに共感いただいて、FSCミックス紙を使った「白河だるま」を製品化することになったのです。
三澤さん(市瀬):
エコプロでは発表されたばかりだったんですね。その時は、白河だるまの特徴の「鶴亀松竹梅」が顔の中に描かれた、伝統的な赤いだるまでした。ただ「白河だるま」は歴史ある伝統工芸品でありながら、近年は斬新なモチーフやデザインにも取り組み、新しい時代のアートとしても親しまれているので、WWFジャパンさんのデザインでもステキなものが作れるのではないかと思ったんです。
梶川さん(WWFジャパン):
事前にWebサイトなども拝見させていただきましたが、様々なデザインやモチーフのものがあって、どれも表情豊かですばらしかったです。私たちのリクエスト以上の物が出来上がってきそうな期待感がありました。
渡辺さん(白河だるま総本舗):
ご連絡をいただいて、驚くと同時にすごくうれしかったですね。WWFは世界的な環境保護団体で、会員も環境に興味を持っている方が多いですから。たくさんの方に「白河だるま」を知っていただくいい機会であり、同時に紙を使った伝統工芸品として環境配慮についてメッセージを広げられたらと思いました。
濱崎さん(三菱製紙エコシステムアカデミー)
実は、白河だるま総本舗さんとの連携は、だるまの土台となる土粘土の代わりにプレスボードという特殊な紙を使った「ecoだるま」を開発するところからはじまったので、お付き合い自体は長いんです。そこからFSC認証紙を使った「FSC認証 白河だるま」に発展し、WWFジャパンさんによる「パンだるま」と活動の幅が広がってきたことをとても嬉しく思っています。
「だるま」に乗せて、FSCが描く「持続可能な社会」のメッセージを発信
渡辺さん(白河だるま総本舗):
「ecoだるま」の時は、底の土粘土が軽い紙になって起き上がらなくなったらどうしようかと最初は心配でした。起き上がらない”だるま”は”だるま”じゃないですからね(笑)。今回も、表面のFSC認証紙の素材や底板のFSC認証木材など、いろいろと調整いただいて大変助かりました。原材料の管理の難しさもありましたが、環境への取り組みについても意識が高まったのも、このプロジェクトのおかげだと感謝しています。
長田さん(三菱製紙エコシステムアカデミー):
エコシステムアカデミーは、森のめぐみを介した自然と産業のコラボレーションをテーマとして取り組んでおり、白河だるま総本舗様との取り組みは、三菱製紙白河サイト全体でサポートさせていただきます。はじまりは小さな思いや出会いがきっかけですが、多くの人たちが関わる中で、この白河の地から世界へ持続可能な社会づくりのためのメッセージが発信できればと思います。
渡辺さん(白河だるま総本舗):
まさにそうですね。私たちも伝統産業として、新しい時代のモノづくりを模索しており、原料である”紙”を通して、環境活動に寄与できたらと考えていました。だるまは日本を代表する伝統工芸の一つであり、倒れにくく転んでも起き上がる様は、「七転八起」の縁起物として親しまれてきました。願いや見守る気持ちを込める対象でもあるので、そこに環境保全についての思いを込めることで、世界に発信することも出来るのではないかと思っています。実は、「FSC認証 白河だるま」のときに、ドイツに駐在している留学時代の友人から「FSCでだるまを作っているんだって?」と連絡がもらったことがあるんですよ。
梶川さん(WWFジャパン):
ステキですね。これから本格的に販促活動を展開していくので、WWFジャパンの50周年の親善大使として、メッセージを届けられたらと思っています。
発売からすぐに大好評!「パンだるま」へ高まる期待
ーー本格的な広報はこれからとのことですが、「パンだるま」への反響はいかがですか。
梶川さん(WWFジャパン):
ご覧になった方からは「かわいい!」「癒やされる!」と大好評のコメントを頂いています。「WWFのパンダのロゴをモチーフに、できるだけ本物のパンダに見えるようにしてほしい」という難しいお願いをしたので、絵付けには苦労されたと思うのですが、形といい表情といい、ずっと眺めていたいほどの可愛らしさに仕上がったと思います。平面のパンダロゴを、だるまという立体、しかも白地に黒一色というシンプルな手法で再現できているのに驚きました。
三澤さん(市瀬):
WWFジャパンと白河だるま総本舗さんの間を2~3回くらいサンプルをもってやりとりさせて頂いたでしょうか。パンダの腕から背中にかけての黒い部分の入り方や、本物のパンダと同じおしりの下の位置にある白いしっぽなど、細部まで気が配られていて、動物の表現にこだわりの強いWWFの職員さんも驚かれていたことを思い出します。
渡辺さん(白河だるま総本舗):
そうおっしゃっていただけると嬉しいです。職人もいろんな角度で撮ったパンダの写真を見て研究しながら、かなり試行錯誤していました。特に、赤ちゃんを横向きに抱っこしている表現などは会心の出来だと思います。
「パンだるま」の制作の様子
梶川さん(WWFジャパン):
2021年の1月にオンラインショップ(パンダショップ)のみで発売しました。中には5個ほどまとめ買いされた方もいらっしゃるほどです。好評につき追加生産しております。手間のかかる手作りということもあり、現在ゆっくり納品をお待ちしているところです。(4月中旬入荷完了>パンダショップ)
渡辺さん(白河だるま総本舗):
うれしい悲鳴があがりそうですが、フル稼働でがんばります!
濱崎さん(三菱製紙エコシステムアカデミー):
そのためには、FSC®認証古紙の供給元の多角化が必要ですね。私たちもできる限り協力します。森林からの木材が紙へと姿を変え、一度使われて古紙となり、回収されて再び「だるま」へと生まれ変わる。長期的にはそうした循環の仕組みを活性化させていきたいですね。
出来ることを持ち合って、FSCで生産・消費のカタチを変えていく
ーー最後に今後の展望や期待、座談会の感想などもお聞かせいただけますか。
三澤さん(市瀬):
2003年にCoC認証を取得して、まもなく20年目になるのですが、このプロジェクトに関わって、改めて作り手の創意工夫や取り組み方によって、品質そのものも高めていけることを実感しました。また、企画から原料の生産、製造、流通、販売など一連をここまでスムーズに連携できたことにも感動しました。FSCについては環境配慮という側面だけでなく、「こんなにステキなものができるんですよ!」と品質や活用法などについても自信を持って訴求していきたいと思っています。
渡辺さん(白河だるま総本舗):
伝統産業でも環境に配慮する時代になったことを改めて強く認識しています。ただ、それも消費者の手に渡り、事業として成り立っていかなければ、持続性は確保できません。前回の「白河だるま FSC認証」は基本的には非売品の贈答用で、「パンだるま」はFSC認証商品としては実質的に一般消費者向け販売品の第一弾となります。この成功によって、他の企画にも展開できることを期待しています。
梶川さん(WWFジャパン):
実は、既に大型ネコ科をモチーフにした新作サンプルのご依頼をしたところなんです。
長田さん(三菱製紙エコシステムアカデミー):
それは楽しみですね!三菱製紙エコシステムアカデミーとしても、地元の伝統工芸を担う白河だるま総本舗と市瀬、そしてFSC認証を共に推進してきたWWFジャパンとともに協力して1つの形にできたことを本当に嬉しく思い、今後も取り組みが続いていくことを願っています。そして、福島県白河の社有林を活用して体験型の森林環境学習を提供してきた中で「白河だるま」についても絵付け体験などのイベントを行なってきましたが、今後はさらに『パンだるま』を通じて、FSC認証や森林の大切さなどを伝える活動に展開できればと考えています。
梶川さん(WWFジャパン):
パンダショップについては、環境配慮などエシカルな商品を拡げるという役割をもっており、今後もFSC認証商品については「地球一個分の暮らし」を目指して積極的に商品化していきたいと思っています。今回の「パンだるま」が出来上がるまでには、本当にいろんな方々のご協力があったのだと、改めて実感しました。昨年からコロナ禍で動けませんでしたが、いずれは白河だるまの工房やFSCの森などを訪れ、皆様にも直接お会いできればと思っています。
ーー皆様、ありがとうございました。
【取材先募集のお知らせ】
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お送りいただいた内容より、掲載可否を精査させて頂いた上での取材となります。
必ず掲載とならない旨、何卒ご了承ください。
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