FSCで「誰も不幸にしない消費」について考えてみませんか?
速水亨さんは、三重県の尾鷲林業地で江戸時代から続く林業家の9代目。2000年2月に日本で初めてFSC認証を取得するなど、先進的な林業経営の先駆者でもあります。速水さんがどんな思いで林業に取り組み、なぜFSC認証を取得したのか。そして、豊かな環境を未来に受け継いでいくために、私達にどんなことができるのか、お話を伺いました。
森は生き物の集合体
高品質なヒノキ材の産地として有名な尾鷲地域。林業のさかんな尾鷲で生まれ育った速水さんが、大学卒業後に家業に携わることになったのは、自然の流れだったといいます。
「実は、大学の専攻は林業ではないんです。でも、子どもの頃から森に入り、父親や従業員が楽しそうに森で働く様子を間近で見て育ったせいか、卒業後は自然と家業を手伝うようになりました」
「そうした中でで感じるようになったのは、『森は生き物の集合体であり、様々な生態系の上にあるものだ』ということです。だから『森を守る』ためには、木だけを活かすとか、大切にするだけでは不十分。木はもちろん、そこに棲む生き物や土壌、空気に至るまで、森を構成する全てを考える必要があると思っています。下草を生やして表面の土壌流失を防いだり、間伐をして明るい森を造ったりと、生物多様性や環境に配慮した森林経営を行うことは、FSC認証を取得している森であれば当たり前のこと。当社は、FSC認証を取得する以前から、そうやって森林を管理してきました。FSCとは森に対する考え方が元々近かったように思います」
世界各地の森林を訪ねて見聞を広め、環境に配慮した森林経営を進めてきたという速水さん。FSC認証とは、どういったきっかけで出会ったのでしょう。
これこそFSCが目指す森!
「家業に取り組む中で、もっと知識を深めたいという気持ちが強くなり、2年間林業について大学の研究室で本気で学びました。そこで培った経験やそれまでの活動から、環境管理の国際規格ISO14001を森林管理にどう適用できるか、ということがテーマの国際会議に代表として出席することになったんです。そこで初めてFSCと出会いました」
FSCの『森を生態系として捉え、森の資源を活かしながら地域と共に森を守り、ここで生産した木材を明確にわかるラベルを付けて消費者に届け消費者が選択的に使用する』という考え方は、知れば知るほど『自分たちと同じ考え方だ!』と感じたそうです。とはいえ当時、日本のFSC認証取得者はゼロ。速水さんをFSC認証取得に突き動かしたきっかけはなんだったのでしょう。
「国際会議の後、FSCの審査員がアメリカから来日するということで、森を案内してほしいと頼まれたんです。審査員と森を一緒に歩いていると、『これこそFSCが目指す森だ!今すぐにでも認証が取れる』と言われました。世界の森林を見る中で、うちの木材が世界的な視点で見てどんな価値があるか確かめたいという思いが強くあり、FSC認証を取得することでより立ち位置が明確になるのではと思い、取得を決意しました」
ただ、日本初のFSC認証取得者になることには相当な責任を感じたといいます。
「どうしても、初めて取得した者がその後の認証の形を決めてしまいます。今後、日本でも普及してほしいからこそ、速水林業だから取得できた、何か特別な者だけが取得できる認証だ、という印象を与えてはならないという気持ちがありました」
また、日本のFSC認証取得者がゼロということは、審査機関がなく、審査員ももちろんゼロ。FSC認証取得のために、森林の専門家を募集・選抜し、審査員の育成からスタートだったそうです。
「私も審査員の選考から携わりましたが、そこで集まった方々は今でも日本のFSC認証を支えているんですよ」
それ以外にも、様々な調整が必要でした。
「資料は全て英語だし、世界でも数件目という人工林での取得基準の解釈、FSCの掲げる『10の原則と70の基準』と日本の独自性とのすり合わせなど、審査員からはすぐに取れるとは言われたものの、審査の前は徹夜で資料を作りこみました」
そして2000年2月、速水林業の森林は日本で初めてFSC認証を取得します。
「実際にFSCを取得した結果、尾鷲林業の価値を再認識でき、さらに自分たちの森の位置づけが明らかになりました。日本の林業も国際的な競争の中にあります。日本は島国なので、どうしても世界が遠くなってしまいがちですが、一人の林業家として、世界の中の日本の森、日本の林業を考え、世界に負けないような豊かな森を育てていきたいですね」
森を守るために身近なところから「知ること」をはじめよう
速水さんは林業家だけでなく、私達消費者も「世界を知ること」を大切にしてほしいと語ります。
「私自身も消費者ですが、食べ物や紙、木材にしても、自分が消費しているモノがどのように作られるのか、考えながら日々を過ごしている人はほとんどいないのではないでしょうか。生産されてから、自分の手に届くまでに何が起こり、どんな影響を与えているのか、ぜひ考えてほしいのです」
近年、インターネットの普及などもあり、様々な情報がたやすく手に入る時代になりましたが、意識して、見よう調べようと思わなければ、本当のことを知ることはできません。
「トレサビリティを突き詰めていくのは手間もかかるし、難しいのは確かなので、信頼できるモノを見極めることも大切です。木材製品でいえば、『FSC認証』がまさにそれです。『FSCマーク』の製品を選べば、『10の原則と70の基準』は確実に担保されていることになります」
「FSCでは森林の審査のとき、森で働いている人にも必ずインタビューします。森に関わる全ての人とFSCの理念を共有するのはとても大変ではありますが、そこまで徹底している。だからこそ、私はFSCには価値があると思っています」
森がどんなに豊かになっても、働く人が搾取されていたら認証は取得ができません。先住民族を追い出したり、男女差別がなされていたりしても同様です。2015年に採択されたSDGs(持続可能な開発目標)でも誰も置き去りにしないという約束が掲げられていますが、FSCマークを選ぶことで、その目標達成にもつながっていくでしょう。
「実際、豊かな森は説明なんかなくても感動するものですよ。お互いがお互いに影響し合って、美しい景観を作り上げている。人間もその一部です。そして、FSCマークはその美しい森で生産された製品である証。その価値に気づいた人から、1人でもいいのでぜひ周りの人に教えてあげてください」
小さな虫や草花、木の葉などが森を構成し、豊かな森を作り上げるように、私たち一人ひとりの行動や思いが豊かな森を支える基礎になっていきます。小さな力も集まれば、大きな影響力になることは自然界を見ても明らか。ぜひ、豊かな森づくりのために小さなことからでも始めてみませんか。
速水林業
三重県北牟婁郡紀北町引本浦345
http://www.re-forest.com/hayami/index.html
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株式会社ワイス・ワイス
FSCジャパン 広報担当 河野絵美佳さん