2019.10.4

WWFジャパン 自然保護室 森林グループ 古澤 千明さん

FSCの推奨・支援者として、共に森林保全活動に取り組む 

パンダのマークでおなじみの「WWF」は100カ国以上で活動する世界的な環境保全団体です。1961年の設立時の目的は、絶滅の恐れのある野生生物の保護が主でしたが、近年では野生生物が生きる森や海などの環境保全にまで対象を広げ、世界の森林を守る手段の一つとして「FSC森林認証」の普及に取り組んでいます。日本のWWFでFSCを含めた森林保全活動に取り組む古澤千明さんに、WWFがFSCを推奨する理由や思いについてお話しいただきました。

 

子どもの頃から自然に関心を持ち、留学先のカナダで豊かな大自然に触れて感動し、「自然を守りたい」という思いを持つようになり、一般企業を経てWWFジャパンに入職。年に数回は海外の森やジャングルを歩き、「普通の人」の感性で 現場を見ることを心がけている。プライベートでは1児のママ。「子どもが大人になる未来に自然を残したいという思いはいっそう強くなりました。その思いを、いつかわかってもらえるといいなと思います」

 

世界の中の日本を意識し、森林保全活動を展開

環境保全団体として世界100カ国以上に大きなネットワークをもつWWF。野生動物を含めた「人類が自然と調和して生きられる未来」を目指し、地球規模での環境保全活動を進めてきました。1993年のFSC設立時にもWWFは参画し、現在に至るまでFSCを支えています。
 
そのWWFネットワークの一員として1971年に設立されたWWFジャパンも、日本国内だけでなく日本が関係する国際的な問題として「森林保全」を活動の1つの柱に掲げ、FSCの推奨・普及活動を行なっています。
 

 
「WWFでは、WWFネットワーク全体として優先して取り組む活動テーマがあると同時に各国のWWFもそれぞれ取り組むべきテーマを持っています。WWFジャパンがFSCの推奨・支援を行なうのは、組織としてFSCの設立に関わったという責任もさることながら、日本の経済活動が世界の森林に与える影響が非常に大きく、そこに国際認証であるFSCが良い影響をもたらすと考えているからです」
 
日本へ輸入される林産物や農産物が他国の自然や人々に与えるインパクトについて、日本国内にいるとほとんど知ることがありません。しかし、WWFが優先的に保護すべきとするエリア、たとえばインドネシアやメコン地域などで起きている自然破壊には、日本の経済活動が密接に結びついていることが少なくないといいます。

一見豊かな森に見えるが、同じ木ばかりが植林され、他の生物の姿はほとんど見られない

「様々な事情が複雑に絡んでおり、一概には言えませんが、日本での暮らしを豊かにするものが間接的に森林破壊につながっていることもあるのです。たとえば、日本にも多く輸入されているパーム油は自然の森を大規模に切り開いてアブラヤシだけを植えたプランテーション(農園)で生産されているものもあります。パーム油そのものが悪いわけではなく、その生産方法に問題があるというわけですね。
 
いわば、森林保全活動はそれらをていねいに解きほぐすようなものです。木材の過剰伐採が起きる理由はなぜか、例えば紙やパーム生産など他の用途への土地転換やインフラの開発、さらに企業の進出や法整備の課題、地域住民意識や情報の不足、貧困など問題は多岐にわたっています。その複雑な問題に対し、一つひとつ課題を解決する現場のプロジェクトを支援するとともに、生産物の行き先である日本のマーケット側からも働きかけることで、両面から持続可能な森林利用に取り組んでいます。FSCはその両方に効果的な施策だと考えています」
 
私たちが使う紙や木材によって、輸入元の国に残された貴重な自然の森を破壊しないためには、生産地で適切に森林管理ができているかどうかを確認し続けることが大切です。また、そうした森で生産された生産物を消費者が「選択」というかたちで支援できるようにするためにも何らかの手段や目印が必要です。FSCによる「適切な森林管理」の原則と基準は、その確認のために有効というわけです。
 

FSCを森林保全と利用の道標として示せる存在に

森の資源を活用したい人、森をそのまま守りたい人 など様々な人が関係する中で、複雑な問題を解決するためのガイドラインを示し、適切な管理のもとで「森を活用しながら守り続ける」というスタンスを掲げているFSC は、多くの人の共感を得やすいといいます。
 
「多くの人の共感を得やすいという点においては、公平公正であることも重要です。それは、国際的な第三者認証としての信頼性にも大きく関わる重要なポイントですよね。つまり、FSCのルールが立場の異なる、例えば企業やNGOといったようなステークホルダー(利害関係者)の平等な参画によって決定され、高い透明性をもって運用されること。認証の取得に関しては、さらに独立した立場にある監査機関が、審査・評価を行なう。このようなかたちで高い透明性・信頼性の維持に取り組んでいるからこそ、地域の方や企業、NGO、行政など各方面から多くの賛同が得られているのではないでしょうか」
 


 
そして、FSCの「森を活かしながら守る」という考え方は、組織や国、時代を越えて広がっていきます。
 
「森林管理はたゆまない実践を必要とし、本当に気の長い取り組みです。時には荒れた森を回復させたりしながら、持続的活用が可能な森になるためには、一人の人生どころか何世代もの継続が必要です。情報があふれる中で、守るべき自然の森の保全や持続可能な生産林の管理とはどのようなもので、何をすべきで、その先に何があるのか。FSCには世界の森林における課題や前向きな実践が蓄積しています。そんなFSCを一つの道標として紹介し、もし改善すべきことがあれば第三者として意見を伝えていく。WWFジャパンはそんな存在になれればと思っています」
 

一次体験を語れる人として現場に立つことを大切にしたい

WWFジャパンが森林保全活動を行なう中で、少しずつ時代の空気も変わりつつあると感じることがあります。日本企業が環境配慮に対する方針や目的をたてることに以前より積極的になり、森林資源の調達に対する考え方も変わってきました。SDGsの浸透や東京オリンピック・パラリンピックなどもあり、環境配慮に対する意識は今後も高まっていくでしょう。「まだまだこれから」といいながらも、WWFへのFSCに関する問い合わせは以前よりかなり増えているそうです。
 
「企業などの皆さんとお会いする時、企業活動には経済合理性が影響するので、どうしてもビジネス寄りの話が多くなりがちです。そんな中で私が大切にしているのが、『現場のリアリティを伝えること』です。何が森林で起きているのか、そこに携わる人達が直面している課題や挑戦、思いを知らないままでは、せっかく高まった関心も一過性のブームとして終わりかねません。本当なら現地にお連れしたいところですが、それがかなわないなら、一次体験を語れる私たちが伝えていかなければと思っています」
 
そのためにも、現場に足を運び、険しい自然の中で現状を見つめ、多くの人と会って行政の課題など社会的な背景まで見聞きしながら、何が起きているのか問題を把握し、理解することを大切にしているといいます。
 

  • WWFも参加した国際会議の様子 WWFも参加した国際会議の様子
  • 日本で開催したセミナーで発表も 日本で開催したセミナーで発表も

 
「海外出張はなかなか心身ともにハードです。近年は電話やインターネットなどでやり取りすることも増えてきましたが、それでも現地での経験に勝るものはありません。プロジェクト実施地を訪問するときは、できるだけたくさんの人と会って話をし、どんな危機感を懐き、どれだけの苦労をして森を守ろうとしているか、思いや考え方を知りたいと考えています」
 
森に関わる人といっても、行政や企業、労働者、居住者、なかにはその森の管理方法に異論がある人も含め、様々な立場の人がいます。できるだけ多くの立場や考え方にふれ、その中から解決策を見出すのは難しいながらも大変重要なことです。
 
「人と森林の関係において必ずしも絶対的な正解はなく、議論だけを続けても森は守れません。だからこそ、まずはやってみる。そして、その結果を踏まえて新たな方策を考えることが必要だと思っています。そこでお伝えしたいのが、FSCのガイドラインに基づいて実際に取り組みを進めた成果です。森や環境が守られ、産業が成り立ち、地域に学校や病院ができ、人と森が共存共栄できたという事例もお伝えしていきたいですね 」
 

一人ひとりの意識できっと世界は変えられる

さらにWWFジャパンが課題としているのが、森林の持続可能な利用の重要性やFSCの意義を「一般消費者の皆さんに伝えること」だといいます。メディアや学校への働きかけの他、FSCマークのついたパンダグッズの販売や企業と連携したFSCのイベントなど試行錯誤しながら、できるだけ多く接点を持てるようアプローチを続けています。
 

  • FSC認証紙・木材を使ったWWFジャパンのパンダノートとマグネット。
  • FSCマーク入りの学校給食用の牛乳容器にWWFジャパンの「コパンダ」が登場。

 
2019年2月には森にやさしいハンバーガーを広める「アースバーガープロジェクト」を開催。
 
「FSCに真摯に取り組む企業の努力がもっと世の中で評価されてほしいですね。お金はもちろん、手間やリソースをかけて本当に真摯に取り組んでいるんですよ。FSCマークの商品を手に取る人には、ぜひそこにも思いを馳せてもらえるとうれしいです。 私たちが当たり前と思っている身近な製品を提供し続けるために、多くの人たちが努力している。それをもっと知っていただければと思っています。FSCマークの裏側にどのような活動があり、思いがあるか。それを知れば絶対にFSCマークがついた商品を選びたくなると思いますよ(笑)」
 

 
古澤さんが様々な”現場”で見聞きしてきた一次体験は、WWFジャパンやFSC、学校などが主催するイベントで聞くことができます。あらゆる世代や立場で耳を傾ける人が増えてきたなかで、とりわけ子どもや若い人たちの真摯な「世の中を変えよう」という気持ちにふれることが多いといいます。
 
「子どもたちは本当に地球の未来に関心を持ち、真剣に耳を傾けてくれます。そして、いいことだと思うと友達や家族に教えようとします。そんな素直な反応や行動を、もっと大人たちもとっていいと思うんです。SNSのいいねやシェアでもいいし、『これ、環境にいいマークらしいよ』と教えるだけでもいい。一人ひとりがちょっとFSCを意識するだけでも大きなインパクトがあります。ぜひ、ぜひ、自分という『一人の消費者』の影響力に自信を持っていただきたいですね」
 
地球上で毎年760万haもの森林が失われている今、まさに「待ったなし」の状況にあるといって過言ではありません。未来に豊かな森を残すには、私たち一人ひとりが環境に配慮した消費行動を積み重ねていくことが大切です。森を守るための指標の1つとして、ぜひFSCマークを選んでくださいね。
 
 

WWFジャパン
東京都港区三田1-4-28 三田国際ビル3階
https://www.wwf.or.jp/
 

FSC C011851

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