2019.7.24

FSCジャパン 広報担当 河野絵美佳さん

FSC認証を日本に広げ、人と人との橋渡し役になる

森林の管理と木材の流通・加工のプロセスを認証する国際的な非営利組織であるFSC(Forest Stewardship Council®、森林管理協議会)。そのサステナブルな考え方や真摯な取り組みから、信頼度の高い森林認証制度として世界各国の消費者や企業、環境団体などから広く支持されています。

その日本での活動を担っているのが、日本事務局である「FSCジャパン」です。今回は、FSCジャパンで広報を担当している河野絵美佳さんに日本でのFSCジャパンの役割や活動、そしてご自身の仕事の内容などについて伺いました。


FSCジャパン 広報担当 河野絵美佳さん
武蔵野美術大学で木工デザインを学ぶ中でFSC認証と出会い、世界の森林が抱える問題について知ると同時に持続可能な森林資源の活用法として興味を持つ。卒業制作の木工作品に説明を加えたいとFSCジャパンに連絡を取ったことをきっかけに2013年に入職し、広報を担当する。「最近、友達からもFSCマークを見かけたよ、と連絡がくるようになりました。少しずつFSC認証を知る人が増えていく実感があり、嬉しく思っています」

日本のFSC事務局として世界との調整・橋渡し役を担う

「FSC森林認証とは、どんなものかご存知ですか? その認証を受けた証である『FSCマーク』は日本ではまだ十分に知られていないのですが、私たち消費者が『森を大切にしたい』という思いを持って何かを選ぶ時に、目印にしていただきたいマークなんです」

そう語るのは、FSCジャパンの河野絵美佳さん。確かにちょっと意識してスーパーやコンビニで商品を見てみると、飲料のパッケージや文房具などに、木をかたどった「FSCマーク」がついたものがあることに気付きます。でも、どうしてFSCマークがついた製品を選ぶと「森を大切にする」ことになるのでしょう。

「FSC森林認証は、木材由来の製品が環境や社会にやさしく適切な管理がなされた森林のものかどうか、審査して証明する国際森林認証の1つです。たとえば、動植物の環境に影響を与えないように伐採を適切に行うこと、先住民族や労働者の権利を守ることなど、環境と社会に配慮して森のめぐみを活用するために、10項目に渡る原則を設けています。その厳しい審査をパスしたものだけにFSCマークがつけられるので、それを選ぶと日々の暮らしを通じて森の資源を活かしながら守るという活動に参加できるというわけです」

様々な製品にFSCマークを見かけることが増えました。

FSCの国際本部はドイツのボンにあり、河野さんが所属するFSCジャパンはそこから正式に認証を受けた日本事務局として活動を行っています。いったいどのような役割を持ち、どのようなお仕事をしているのでしょうか。

「FSCの一番の役割は『認証の基準をつくること』です。審査自体は認証機関という審査専門の組織に委ねられ、私たちは一切審査には関わりません。FSCジャパンを含めた各国事務局では、基準の策定や変更などの際に日本の関係者が意見や要望を本部に伝えるサポートをしたり、逆に本部からの回答や結果を和訳して伝えたり、いわば橋渡し的な役割を担っています」

単に翻訳して伝えるだけでなく、認証機関を集めてミーティングや勉強会を行ったり、認証機関によって審査基準にずれが起きないように調整したり、橋渡しする内容も方法も様々。一方的に押し付けるのではなく、事例共有や協議などで情報共有することを意識しているといいます。

「厳格な認証でも解釈が異なる場合もあれば、地域や業界などで異なる要望や意見が出ることがあります。その中で認証制度として厳しく守るべきものと対応できるものとを皆さんとの対話を通じて判断する感じですね。ただし、FSCジャパン単独では認証基準としての判断はできないため、国際事務局に相談したり正式な判断を仰いだりしながら調整しています」

FSCは個人・法人の会員制度を設けており、会員になると総会での意見・要望の提出や議決などが可能になります。会員は社会・経済・環境の3つの利害関係に基づいた分会に属し、投票を行います。全体の2/3以上かつ各分会で50%以上が賛成しなければ可決されず、一部の分会に偏った意思決定にならないよう配慮されています。さらに、各分会は開発途上国と先進国からの会員に分かれ、それぞれが均等な投票権を持つように一票の重みが調整されています。そうした議論の場はあるものの、日本の会員はまだ少なくやや遠慮気味だそう。

「まだまだ日本の意見や要望が反映される余地があると思うので、積極的に出してもらえるよう促すこともFSCジャパンの大切な仕事です」

FSC採用企業とともにFSC認証について知ってもらうための活動を展開

FSCは厳しいルールや認証機関による公正な審査など、信頼性の高い森林認証制度として評価されてはいますが、日本での認知度はまだ決して高くはありません。そこで「日本の多くの人に知ってもらい、活用してもらうための活動」もFSCジャパンの重要な仕事になっています。

「プレスリリース配信などPR活動の他、FSCを知ってもらうためのイベントを企画・運営しています。2019年春にはキリンさんと連携して『Twitterキャンペーン』を行い、夏には『FSCフォレストウィーク』があります。今回のFSCフォレストウィークでは小売店でのリアルイベントや、SNSを通じたオンラインキャンペーンを仕掛けていく予定です」

FSCフォレストウィーク2019の詳細は、こちら!

2019年春にTwitterで開催した『FSCジャパン×キリン みつけようFSCキャンペーン』

FSCに関わる企業や組織との連携によってネットワークができ、企業同士を取り持つことも増えてきたといいます。

「先日FSCの認証木材を使いたいという企業さんを集めて勉強会を行ったんです。紙製品と比べてFSC認証の木材の活用が進んでいないことが課題となっており、ニーズをヒアリングしながら、ゆくゆくは加工事業者やFSC認証林なども含めたサプライチェーンをつなげていきたいと考えています」

また、今回のフォレストウィークでは、中高生が参加してFSCを広げるためのアイディアを出し合い、よい案を表彰するという企画も考えているそう。ビジネス関係だけでなく、そうした環境保全や森林問題に興味のある先生や子どもたちとの連携も河野さんの仕事です。

子どもたちが参加してのワークショップの様子

「FSCジャパンを訪ねる学生は、中学生から大学生までと幅広く、企業のCSR活動を知りたいと直接取材に行ったり、研究の一環としてFSC認証の森を見学したり、皆さん本当に意欲的です。ある高校では、生徒たちが中心になって国産材を使った製品を作って学内で販売し、そのお金で子ども向けのFSCのワークショップを開催し、子どもたちから親にFSCを伝えてもらうという取り組みを行っています。また、昨年のFSCフォレストウィークでは中高生自身による中高生のFSCマーク認知度調査を行い、企業や教育関係者を招いて発表会を行いました」

自分が使っているものがどこからきたのか想像してみよう

日本に拠点をおきながら、出張などで海外に赴くことも多く、改めて日本における課題を実感することもあると語る河野さん。

「近年ではSDGsが注目され、若い世代を中心に環境配慮や社会的意義を意識する人も増えてきました。それでも森林資源の課題については、他国と比べると『消費国である』という意識が薄く、自分の国で問題が起きているという実感がない人が多いように思います」

それは数字にも出ており、日本におけるFSCマークの認知度は世界的に見ても低く、見たことがあるという人も含めてわずか18%程度*。5人に1人しか知らない状況です。一方、ドイツでは61〜70%と高く、中国でも統計上都市部での回答率が高いなどの偏りはありますが60%を越えています。

FSC認証の国別認知度

*「FSC世界消費者調査」(FSC本部 2017年12月時点)

「輸入材が使われることが多い日本では、国内の森林が減らないので、問題が見えにくいのかもしれません。課題意識が持てない中では、FSCの価値もわかりにくいのだと思います。しかしながら、日本にいる私たちの消費活動が世界に大きく影響していることは間違いありません。だからこそ、自分たちが使っているものに対して『どこからきたのか』と興味をもち、想像してみてほしいです」

「様々な環境配慮商品や認証、マークがありますが、環境に配慮した買い物をするための目安の1つとしてFSCマークも意識の中に入れてもらえたらうれしいですね」

FSCマークの製品を選ぶという環境配慮を意識した日々の積み重ねが1本の木を生かし、大きな森の、そして地球環境の保全へとつながっていきます。そうした消費活動が当たり前になることを目指して、河野さんはじめFSCジャパンの活動は続いていきます。

FSCジャパン
東京都新宿区西新宿7-4-4武蔵ビル5F
https://jp.fsc.org/jp-jp

FSC C011851

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