2016.5.2

スープストックトーキョーの店づくり

スープがおいしくなる空間を考えたら「木」がやっぱりいい

素材にこだわった滋養豊かな「食べるスープ」で人気を集める「スープストックトーキョー」。丁寧に作られたスープをいただく空間は、やっぱり気持ちよくてステキな場所であってほしい。そんな思いから「スープストックトーキョー」のお店には様々な工夫やアイディアが盛り込まれています。内装にFSCの木材を使ったお店があるのは、そんな理由からなんですね。その経緯を詳しくうかがいました。

お話しを伺った方

株式会社スマイルズ
クリエイティブ事業部 ディレクター
平井俊旭さん
「スープストックトーキョー」の創業期である2001年より、運営会社である株式会社スマイルズのクリエイティブディレクターとして参画し、ブランディングや店づくりに従事。国産材を求めて様々な地域や取り組みに参加する中で、地域デザインの必要性を痛感。2014年12月に雨上(あめあがる)株式会社を設立。滋賀県高島市を中心に地域事業促進に取り組んでいる。

スープづくりも店づくりも「素材」が大切

スープストックトーキョーのスープのおいしさのヒミツは、素材へのこだわりと丁寧な調理。肉や魚、野菜などの本来の旨みと風味を最大限に引き出すために、化学調味料や保存料などを使わずに丁寧に手間隙かけて作られています。

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しかし、現代の食の流通は複雑で、様々な食品偽装の問題が横行しています。危機感を抱いたスープストックトーキョーでは、原料がどこからどう届いたのか「トレサビリティ」を強化するようになりました。原材料の産地を全て見直し、当時、偽装や添加物などの問題にもなっていた中国産食材も一切排除。種類を限定し、半年間でトレサビリティを明確化した食材で30種類のスープを実現させました。

「その時、スープ以外のリーフレットやお店などについても、どんな素材でつくられているのか、考えるべきではないかと思うようになりました。安心安全でおいしいスープを提供する会社なら、そうした部分にも配慮する必要があるのではないかと。会社の思いを表す“クリエイティブとしてできること”について考えるようになったわけです」

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そんな折、紙の問屋さんから店舗で配布しているリーフレットの紙にFSCの認証紙の使用を勧められました。

「それで初めてFSCの存在を認識しました。そしてFSC森林認証を日本に初めて導入した速水林業の速水社長の雑誌記事を読んで感銘を受け、リーフレットをFSC認定紙にすると同時に“店舗の素材としての国産材”を意識するようになったんです」

その取り組みの最初の店舗が、2010年8月にオープンしたルミネ横浜店(現在は区画変更に伴い同一フロアにリロケーションされています)。FSC森林認証を取得した森から届いた檜材を用いてフローリング材やベンチシート、テーブルへと加工しました。

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横浜ルミネ店(2010年8月当時)

「FSCの森を見学に行った時、その美しさに感動したんですよね。その時の感動をお客様にも共有したいと思い、店内で映像をデジタルフォトフレームで流し、その森からの材で店内が作られていることをお知らせしました。食だけでなく生態系や環境にも配慮しているとなれば、おいしいだけでなく、気分よく過ごしていただけると思ったんです」

木材から森へ、地域へと興味・関心が広がって

素材としての木材に関心を持った平井さん。速水さんが主催する「林業塾」へ参加するようになり、木はもちろん、その産地や木材の流通システムなどにも興味が広がっていきました。

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「デザインをはじめた頃は、木材への関心と言えば材質や質感、色程度でした。それがいい質感の木材を見ると『産地はどこだろう』『環境を傷つけてはいないだろうか』など、いろいろ気になるようになって(笑)。たとえば、JR東日本が東北地方の路線を雪や暴風から守るために線路に沿って植樹してきた鉄道林。そこから切り出される間伐材の活用を速水林業の速水さんから薦められました。もともと鉄道林は暴風、防雪以外に木材を販売する事を想定していましたが、外材におされて材価が大幅に下落し、これまでほとんど製材されてきませんでした。しかしJR東日本が再び鉄道林に注目し、その活用を検討し始めていたことから『上野店』での活用を試みました」

しかし、これまで鉄道林は民間企業が内装材や建材として活用した事例が無く、JR内の複数の関係部署間の調整が難航しました。

「地域を指定して国産の木材を活用するには、どうしても手間と時間を要します。同様にコストの調整も大変です。それでも国産材を使うのは、スマイルズの『生活価値の拡充』という会社の理念を実現したいという思いがあるから。そして、スープ ストック トーキョーのたくさんのお客様に国内外の森林の問題に少しでも気づいていただくことで、国産木材活用の新たな気運が生まれたらという思いがあるからです」

他にも、昔から高級木材として有名だった吉野杉を使った京都店、宮崎県のしいたけ栽培用の材が太くなったクヌギ材をつかった福岡店など、様々な産地の木材が使われています。

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京都店には地元京都の吉野杉を使用
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福岡店には宮崎県のクヌギ材

「それぞれの木の風合いや個性が出て、面白いですよ。それを活かすのも楽しかったですね。たとえば、四ッ谷店には壁面にクヌギの樹皮の部分を使いました。これは宮崎県の諸塚村で、しいたけ栽培用の榾木(ほだぎ)として植林して育てたクヌギやコナラの樹皮に近い部分を活用しています。しいたけ需要の低迷により、伐期を越しても残っている木材を活用する諸塚村の取り組み『どんぐり材プロジェクト』に参加したことから実現しました。樹皮に近いところ以外は修正材として板になり、地元の工務店や東京の家具メーカー『ワイスワイス社』が活用しています。四谷店もテーブルの天板にこの修正材を活用しています」

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四ッ谷店の壁面には、宮崎県諸塚村のクヌギ材の表皮を使用

使用の際には「虫が出るのでは」「反るのでは」と不安や心配の声も多く、調整にはご苦労されたそう。また、国産材はもちろんFSC材の入手や確保にも課題が多いといいます。しかし平井さんは「だからこそやりがいもある」とにっこり。「なんとなく木が気持ちいい、リラックスできる、そんなふうに感じてもらえれば嬉しいです」とのこと。

もともとスープが主役であるスープストックトーキョーのお店。しかし、おいしいスープをゆったりといただける空間にそんな隠れた物語があるというのは、ちょっとうれしいこと。お店にお出かけの際は、使われている木材の故郷である森を想像してみてはいかがでしょうか。

株式会社スマイルズ
東京都目黒区中目黒1-10-23 シティホームズ中目黒203
※「Soup Stock Tokyo」事業は、これまでの運営会社である株式会社スマイルズが新たに株式会社スープストックトーキョーを設立(2016年2月1日に会社分割により新設予定)し、同社へと引き継がれることになりました。
http://www.soup-stock-tokyo.com/

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