ふるさと納税でも大人気!国産材100%の「ナクレ」
岩手県北上市・大槌町から”地元ブランド”として発信したい
北上市、大槌町、金ヶ崎町の「ふるさと納税」の返礼品としても人気の高い「ナクレ」のティシュペーパー&トイレットペーパー。国産材100%を原料とし、その約7割を北上市やFSC認証を受けた大槌町などの岩手県内から調達しています。さらに三菱製紙の北上工場で製造して東北圏内で販売するという、まさに地産地消の「地元ブランド」です。「ふるさと納税」の返礼品とした理由、そして「ナクレ」に対する思いなどについて、北上市役所と大槌町役場の皆さんにお話をうかがいました。
お話を伺った皆さん
全員が生まれも育ちも岩手県。ナクレは身近な存在ですが、「あって当たり前の存在で、その原料が国内では珍しい国産材100%であると知ったときは、本当に驚きました」とのこと。
地域のつながりの中で生まれた、純国産ペーパーブランド「ナクレ」
「ナクレ」は、三菱製紙が製造するティッシュ&トイレットペーパーのブランドです。フランス語で「真珠のような光沢」という意味を持ち、その名の通り、上品なしっとりとした質感が特徴です。その秘密は、原料となるパルプのほとんどが国産の広葉樹であること。ユーカリなど海外の広葉樹に比べて繊維が細く柔らかいため、ふっくらとした肌ざわりに仕上がります。
一般に流通する”国産”製品の原料の多くが再生紙や外国材パルプである中で、「ナクレ」は国産材パルプ100%。しかも約7割が北上市、大槌町など岩手県内から木材の状態で提供され、その多くを三菱製紙の北上工場でチップ化し、製品の製造まで手掛けています。原料の産地と製造工場が近接していることから、配送コストの低減やCO2の削減にも貢献しています。
三菱製紙の北上工場で原料のチップ化から製品の製造まで一貫製造
まさに地産地消のブランドとして、岩手を中心に東北エリアで25年以上前から親しまれてきた「ナクレ」ですが、それ以外の地域では入手しにくいこともあり、知名度は高くありませんでした。しかし、2015年より北上市、続いて金ヶ崎町・大槌町の「ふるさと納税」の返礼品に選ばれたことから、徐々に全国に知られるようになってきました。
「ふるさと納税の返礼品は食品が多いのですが、ニーズの高い日用品で提供できないかと探していました。その中で、北上の木材が原料として使われ、北上で製造された『ナクレ』が候補に上がり、返礼品にふさわしいのではないかと考えて選びました。私たちも日常的に愛用し、品質的にも選んでくださる皆さんに満足いただけると思ったのです」(北上市 小山さん)
ナクレ」を製造する三菱製紙の北上工場は1965年(昭和40年)に操業を開始し、国産材にこだわって紙の原料としてきました。中でも地元である岩手県内の材が多くを占めており、とりわけ北上市との関係は深かったといいます。
「北上市は森林部と都市部とが近接していることもあり、アーバンベアと呼ばれる熊害や、森の手入れが行き届かないゆえの土砂災害など、森林の影響をダイレクトに受ける土地柄です。そこで課題解決のために、北上市では伐採木の運搬費補助などの林業支援をまちぐるみで行ってきました。その一員として三菱製紙さんも森林保全活動に参加いただくなど、森づくりを通じて関係を育んできました」(北上市 高橋さん)
さらに、自治体や林業関係者はもちろん、知り合いが務めていたり、子どもの頃に工場見学に行ったりという人も多く、北上市の皆さんにとって三菱製紙の工場は親しみのある存在だといいます。
「地縁というのでしょうか。お互いにさまざまな接点があって信頼感が育まれ、地域を盛り上げていこうという話がまとまりやすいのだと思います。北上の材も含めて岩手県産材が7割近く使われた『ナクレ』は、その象徴でもあり、信頼厚い地域のブランドとして認識しています」(北上市 小山さん)
FSC認証材の活用を町の活性化につなげる「エコシステム」へ
そして、同じく岩手県の海側、三陸沿岸部のほぼ中央に位置する大槌町も、「ナクレ」の原料となる木材を三菱製紙に供給しています。そのきっかけとなったのは、大槌町と釜石地方森林組合とで構成する「釜石地方森林管理協議会」が2021年にFSC認証を取得したことでした。
「大槌町は”海の町”のイメージが強いかもしれませんが、町の面積の89%が山林という”森の町”でもあります。森林という豊かな資産を守りながら活用し、さらに町外にもアピールするために、国際認証であるFSC認証(FM認証)を取得することが望ましいと考えました。取得後はしっかりと管理された森の木材として誇りをもって訴求できるようになり、製紙メーカーとして日本初のFSC認証を取得した三菱製紙さんとのご縁をいただくことになったのです」(大槌町 佐々木さん)
FSC認証を取得した大槌町の町有林は856haほどで、その中から初年度は1000t、次年度から800t前後の木材を三菱製紙に納めています。これは13〜14年を1サイクルとする計画で、FSC認証でも認められた”森を活用しつつ守る”のに最適な伐採ペース。人工林は整備しなければ荒れ果ててしまうため、持続可能とするには、適切な伐採計画や再植林に則り、長期的な視点で森林を管理する必要があります。そして、さらに重要なのは、伐採した木材を有効に活用し、安定的に利益を生み出すことだといいます。
「ナクレを生産する三菱製紙北上工場の原料として、地元の間伐材を安定的に供給できるのは、私たちにとってもありがたいこと。木材が活用されれば、森の整備のための資金も確保でき、豊かな森を次の世代に引き継いでいくことができます。現在、FSC認証取得は町有林だけですが、しっかりと管理できていることは町民の皆さんへのアピールにもなり、町全体で森林を管理する意識が高まる効果もあります。森が守られれば、海の豊かさも守られ、漁業も盛んな大槌町の活性化にもつながるものと考えています」(大槌町 佐々木さん)
大槌町有林では、周囲の民有林と一緒に森林整備事業を行ったり、子どもたちの夏休みイベントの会場を提供したり、さらに切り出した木材から木工キットを作成して学校の教材とするなど、「町の資源」として町民が森に親しむ機会を増やしているといいます。
「FSC認証取得をきっかけに、『大槌の森や木材』を知ってもらう必要性を強く認識しました。そこで、町内はもちろん、町外の方々にもアピールしたいと思い、大槌町のFSC認証材も原料に利用されている三菱製紙北上工場の製品を大槌町のふるさと納税の返礼品にしようとなり『ナクレ』を選びました」(大槌町 黒澤さん)
「ナクレ」をきっかけに、私たちの町を知ってほしい
北上市のふるさと納税で選ばれる返礼品は、「きたかみ牛」や「野菜セット」など1500種類。その中で「ナクレ」はなんと堂々の1位を獲得しています。
「『ナクレ』を返礼品として選ばれた方の多くは、『日用品として必要だから』という理由がほとんどです。そして、評価も『紙質が良い』『丈夫で使いやすい』など品質についてのコメントをいただくことが多く、毎年ご利用いただいている方もいらっしゃいます。県外の方から『岩手出身なので懐かしくて』『北上の木も使っているんですね』という声もいただき、嬉しく思っています」(北上市 高橋さん)
令和5年度は1年間で2億7000万円もの寄付金を集め、教育や福祉、産業基盤づくりや文化財・環境の保全、など、北上市のまちづくりに活かされています。
「ふるさと納税による寄付金は、使い道について指定することができます。『ナクレ』を選んでいただくことで、さまざまな自治体活動の重要な財源となると同時に、北上をはじめ岩手の林業を支援し、森林の環境保全にもつながっています。ぜひ、北上に見に来ていただきたいですね」(北上市 小山さん)
そして、大槌町のふるさと納税の返礼品でも、「ナクレ」はウニなどの海産物と並んで上位に入っています。ナクレを送る際には、大槌町を紹介するパンフレットを同梱し、FSC認証や町づくり、名産品などについてアピールするようにしているといいます。
「ナクレをきっかけに、FSC認証のこと、大槌町のことも知っていたただければと思います。実際、大槌町をまったく知らなかったという方が、『ナクレ』を通じてFSC認証の取り組みに共感し、名産品のウニなどを購入されたり、旅行先として選ばれたりしています。FSC認証を取得した大槌の町有林にも、ぜひお越しいただければと思います」(大槌町 千葉さん)
大槌町では森での体験型観光にも力を入れており、特に人気が高いのが「ジビエツーリズム」と名付けた狩猟体験です。森の害獣とされてきた鹿を「まちの財産」として捉え、ハンターとともに解体してジビエ料理としていただくというもの。森に棲む野生動物を観察する「ナイトサファリ」も開催されています。
「『ナクレ』をきっかけにFSC認証材や大槌の森や海を紹介したことで、私たち自身も地元の魅力や価値を再確認することになりました。それをヒントに観光資源や名産品を掘り起こし、さらにフィードバックをいただく。そうした輪が、さらに町外、県外にも広がっていくことを期待しています」(大槌町 黒澤さん)
北上市・大槌町と、町の事情や「ナクレ」に関わるきっかけは異なるものの、郷土の森林保全や町の活性化のために、森の資源を有効活用したいという思いは共通しています。ふるさと納税や「ナクレ」を通じて、そうした地域を支援するという消費のあり方も、未来への投資と言えるのではないでしょうか。
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需要を全国に広げ、国内の森林資源を活用していきたい
三菱製紙 北上工場
三菱製紙北上工場では国内材の使用にこだわり、「ナクレ」ブランドの他、写真印画紙用紙などの製品を製造しています。日本の紙用パルプ材の自給率は約26.7%(日本製紙連合会資料2023年)と低く、調達が難しい側面もあります。しかし、国土の67%(林野庁HP 令和4年3月31日現在)が森林で多くの木材資源を蓄える日本において、森林を守るためにも木材の有効活用が欠かせません。その思いのもと、産地の皆さんの協力を得ながら鋭意努力しています。今後は、ふるさと納税などを通じて「ナクレ」をより多くの方にお届けしたいと思っています。日々の生活の中で、ふんわりとなめらかな使い心地を楽しみながら、東北の森を思っていただけば幸いです。
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