自分の学校・地域の環境保全を自分たちの手で!
メッセージを込めたFSC認証の「紙製ファイル」を作成
千葉大学で環境マネジメントシステム(EMS)を運営する”学生主体の組織”として発足した「千葉大学環境ISO学生委員会」。EMSの運営に加え、学内外における環境保全活動や啓発活動などにも取り組んでいます。その一環として2021年度からFSC認証紙の「紙製ファイル」を作成し、次年度の新入生に配布しています。その経緯や取り組みの様子を紹介します。
お話を伺った皆さん
千葉大学の学生主体による環境保全活動
自分たちが学ぶ大学・地域の環境保全活動を自分たちの手で実践するーー。その目的のもと、2003年に発足した「千葉大学環境ISO学生委員会」。ISO14001認証取得を目指し、千葉大学の学生が主体となって「EMS」を構築・運営するために設立された組織です。現在、そのシステムは「千葉大方式」と呼ばれ、EMS運用に必要な研修講師や内部監査員、外部審査対応などの中核業務を学生自身がすべて担っています。
「2009年にはNPO法人格も取得し、各学部学科の1〜3年生、約300人が参加する学校組織でありながら、理事長や役員を学生が担うという法人運営の実践の場にもなっています。学部や学年を超えて様々な人と交流できることは楽しいし、知識や実践方法を座学で学ぶだけでなく、活動として実践できるのも面白いです」(門崎さん)。
EMSの運用の活動では、学内外・国内外での環境・SDGsに関わる活動や、意識向上のためのPR活動なども実施されています。たとえば、リデュース・リユース・リサイクルを訴える古紙回収や学内古本市、ポスターコンテストや省エネイベントなどによる省エネ啓発活動、そして2017年度からの環境啓発イベント「Chiba Winter Fes」では、環境・SDGs関連のパネル展示やゲーム、フリーマーケットなどを行ってきました。
Chiba Winter Fesの様子
「教養科目の授業として単位が取得でき、『千葉大学環境エネルギーマネジメント実務士』という資格が取れるのも魅力です。時期によっては毎週のようにミーティングがあって、イベントなどの準備が大変ですが、普通なら出会えない企業や自治体の方に会えたり、いろんな体験ができたりするので、大学時代にしかできない活動だと思って楽しんでいます」(松本さん)
新入生への委員会アピールにFSC認証グッズを配布
さらに複数の班に分かれ、地域や企業、自治体などとのコラボレーションも多数実施しています。その一つとして2015年から開始した、三菱王子紙販売との協同プロジェクトでは、古紙や間伐材を用いた環境配慮製品を製作し、配布や販売を行っています。
とりわけ2017年から始まった、環境啓発製品を委員会の紹介資料とともに新入生に配布する企画は注目度が高く、多くの反響があるといいます。2023年に企画のチームリーダーとなった門崎さんにとっても、委員会に入るきっかけになりました。
「もともと環境保全活動に興味があったのですが、入学式の時に“木製のしおり”をもらったことで委員会の存在と活動内容を知り、参加することにしました」
そして、翌年の2022年から採用されたのが、FSC認証の”紙製ファイル”でした。
「三菱王子紙販売さんからの提案を受けて、より実用的と判断したからと先輩から聞いています。実際、学生はレポートや資料などが多いし、入学式でも紙の資料をたくさんもらいますから。A4サイズで多くの情報を載せられるのもPR的に最適だと思いました」(門崎さん)
2022年度は、千葉大学のマスコットキャラクターをあしらったデザインで約2500枚を配布し、委員会の存在をアピールしました。そのうちの1枚を入学式で受け取ったのが、現在2年生の井脇さんでした。
「えっ、これが紙なの?と驚き、実はちょっと破いて確かめてみました(笑)。面白い取り組みだと思い、自分もプロジェクトに参加しようと思って委員会に入ることにしたんです。プロジェクトではまず三菱王子紙販売の方に協力してもらって勉強会が行い、その時にFSCの森林保全の目的や仕組みなどをはじめて知りました。それで紙製ファイルがFSC認証であること、そして委員会としても環境保全を強調した方がいいと思い、デザイン募集の際に木をモチーフにしたデザインを提案したんです」
そうして提案された井脇さんのアイデアは、前年の”大学推し”から、委員会の”環境保全活動”についてメッセージ性を高めた方がいいという大多数の意見のもと、採用されました。さらにチームの話し合いの中でSDGsの要素を加えるというアイデアが加わり、「SDGs 17の目標」のカラーリングへと変更。さらに同学の商材企画課の協力を得ながら調整を経て、最終的に2種類のデザインに絞り込んでいきました。なおSDGsについては、多くの学生が中学高校の授業や大学の環境関連授業で触れることも多く、委員会のメンバーも環境保全活動とSDGsを結びつけることは自然だったといいます。
「FSCも委員会の取り組みもSDGsとリンクしているので、そこは誰もが納得したのですが、SDGsを強調したデザインとシンプルなデザインとで最後まで迷っていました。そんな時に、三菱王子紙販売さんから、『実際に印刷しているところを見て決めてみませんか』と紙ファイルを製造しているディーソルさんの工場見学に誘っていただいたんです」(松本さん)
FSC認証紙を使った紙ファイル制作・印刷の現場を見学
ディーソル社の工場見学には、松本さん、井脇さんを含めて6名が参加。同社執行役員DP&MS事業部長の山田義郎さんから紙製ファイルの製造について説明がなされ、データからダイレクトに印刷する最先端の工場の様子を見学しました。
「ファイルという用途ゆえ、強度や撥水性などが大きな課題でした。そこで三菱王子紙販売さんと強度と透明性の高い、専用のトレーシングペーパーを共同開発することから始まり、脱プラスチックという環境配慮性を訴求するためFSC認証紙を採用することを決定しました」と開発の経緯を語る山田さん。「ここまで使い勝手良く、見た目もいい紙製ファイルはそうないと思います」と胸を張ります。
さらに表に撥水性を持たせるニス、複合機でもプリントできるように安定剤、そして、加工時にスムーズに機械を進むよう潤滑剤をそれぞれ塗布しており、いずれも環境に負荷をかけない素材を採用しています。さらにノリも工夫されており、何度も試行錯誤を繰り返して完成させたといいます。委員会の皆さんも興味津々で、「開発のきっかけは?」「ロットはどれくらいから?」など、さまざまな質問がなされていました。
そして、実際に製造・印刷されている現場にも見学に行きました。ドアを開くと大きな機械音が鳴り響き、工場内に進んでいくと10メートル以上もある大きな機械にスルスルと紙が通っては、次々とファイルの形になっていきます。それらを印刷機に移してスイッチを入れると、最終候補に残ったデザイン2種類があっというまに刷り出されてきました。刷りたての紙製ファイルを手に取った松本さん、井脇さんも感慨深げな様子でしたが、実際に形になったものを見て最後の決定をしたようです。
「大きな機械でさまざまな工程を経て製造されていく様子は、大きな音や速さと共に驚きの連続でした。自分たちが企画した紙製ファイルが実際に出来上がっていくのを見るのは興味深く、やっぱり嬉しかったですね。ファイルなどはつい雑に扱いがちですが、こうして作られている様子を見て、手元に届いたらもっと大切に使ってあげようと思いました」(松本さん)
「紙製ファイルもその一つだと思いますが、ディーソルさんがニーズに合わせて環境に配慮しながらさまざまな製品を開発・製造されていることに感銘を受けました。そして、やはり自分が関わったデザインが刷り出されてくる瞬間は感動しました」(井脇さん)
2500人の新入生に環境啓発メッセージと共に配布
工場見学の約3週間後、千葉大学まで完成した紙製ファイルが届けられ、委員会を紹介する資料とあわせて4月5日の入学式に新入生に配られました。
「今年度は手渡しではなく、椅子に置いての配布となったため、ダイレクトな反応がわからなくて残念でした。でも、遠くから見ても興味深げに手にとって見てくれているのがわかった時は、嬉しかったですね」(松本さん)
その後、環境ISO学生委員会に入ってくれた新入生にアンケートを取ったところ、「手触りが独特!」「素材が好き」「気に入って今も使っています」「プラスチックの問題などに配慮しているのがいいなと思った」「もったいなくて使えない」と、概ね高評価。委員会に興味を持って入るきっかけにもなったといいます。
「紙製ファイルは脱プラスチックでもあり、そのままシュレッダーや古紙回収にも回せるので、本当にいい製品だと思います。手触りも独特で、紙でできているけれど透けて見えるというのはインパクトがあるし、興味を持ってもらえる。さらに木やSDGsと紐づけたデザインで、メッセージ性も高まったので、受け取った新入生はもちろん、その家族や友達にも環境啓発が広がっていくといいなと思います」(門崎さん)
「FSCの製品づくりを通じて、さまざまな企業の方と会い、さまざまな経験をさせてもらいました。皆さんの環境に配慮したモノづくりに対する情熱や工夫を知り、わずかながらそのチームの一員になれたことを嬉しく思います。その輪の中で、ビジジネスマナーがちょっとでも身についたのは副産物でしょうか(笑)」(松本さん)
それぞれ、約1年間の取り組みを通じてさまざまな発見があった様子。また、実際に製造の現場に立ち会ったことで、環境配慮製品におけるFSC認証の訴求力や製造の現場の環境保全などについても理解が深まりました。
「受け取ってくれた新入生も委員会にたくさん入ってくれることになり、彼らの意見も取り込みながら、また来年度に向けてブラッシュアップしていきたいですね。特にFSCの勉強会についても、しっかりと考え方や仕組みを理解することが大切だと思うので、全員で参加ができるといいなと思っています」(井脇さん)
先輩が企画したFSCの紙ファイルを通じてメッセージを受け取った後輩が、その次の世代に伝えていく。千葉大学環境ISO学生委員会の環境保全に対する思いも次世代に引き継がれ、さらに進化していくことでしょう。学びながら、楽しみながら、多くの学生とその関係者に環境保全の知識と行動力が育まれることが期待されます。
千葉大学 環境ISO学生委員会社
http://chiba-u-siso.xrea.jp/chibasiso/
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