2022.9.30

三井不動産「わたす日本橋」

内装木材の92%に南三陸産等のFSC認証材を使用

東日本大震災後の南三陸町での社員のボランティア活動をきっかけに三井不動産株式会社が開設した、東北の情報発信・交流拠点「わたす日本橋」。20213月の移転新装の際、内装木材92に南三陸産FSC認証材を使用し、総合不動産デベロッパーとしては初となる「FSCプロジェクト認証」を取得しました。なぜFSC認証材を採用したのか、その効果をどう感じているか、三井不動産株式会社の中村好二さんに伺いました。

お話を伺った三井不動産株式会社 開発企画部 街づくり業務グループ 上席統括 中村好二さん。2021年4月から「わたす日本橋」を担当。

社員のボランティア活動から生まれた、東北と東京をつなぐプロジェクト

オフィスビル、大型商業施設、住宅など幅広い事業を展開する総合不動産デベロッパーの三井不動産株式会社。同社の本社所在地の東京都中央区日本橋室町において、東北の情報発信・交流拠点として開設をしています。

東日本大震災後、一人の社員がボランティア活動のために宮城県南三陸町に通っていました。そこから社内に輪が広がり、南三陸町の方々との交流が生まれるなかで、継続的な関わりを望む有志により、「わたす日本橋」は2015年3月に誕生しました。
「人と未来に、心の架け橋を」というコンセプトを掲げ、災害を経て未来へ歩もうとする方々に学び、人の心に「わたす」架け橋となって、たくさんの笑顔とつながりが生まれる場所でありたいとの願いで運営されています。

「名称の『わたす』には、『橋渡し』の意味が込められています。南三陸町をはじめとする東北と、東京をつなぐ橋渡し役となり、さまざまな交流を広げていきたいという、社員たちの思いを表現したものです。日本橋は江戸時代に五街道の起点として、日本全国から人・もの・ことが集まって新たな産業や文化を生んできた街。こうした交流拠点にぴったりの場所ではないでしょうか」(中村さん)

「わたす日本橋」内にてインタビューに対応してくださった中村さん

「わたす日本橋」のプロジェクトの主要な取り組みは、拠点となる飲食物販店舗と、情報発信や交流活動です。店舗では、東北の食材の活用による飲食の提供や物販が中心となります。また、店舗内のギャラリー展示やわたす新聞などの媒体による情報発信や、南三陸町の中学生との交流活動などを行っています。

「私たちは未来へ向かって歩こうとされる方々に学び、橋渡し役になることを大切にして取り組んできました。震災から10年以上経ち、状況も変化していますので、今は何をすべきかを模索しながら、活動を継続していきたいと考えています」(中村さん)

グレードアップして移転新装オープン

「わたす日本橋」開設から7年目となった2021年3月、「日本橋から、未来へ、わたそう。世界中へ、笑顔を、わたそう。」をキャッチフレーズに、店舗は日本橋三井タワーの一角に移転新装オープンしました。新店舗は「マーケット&ギャラリー」「ダイニング&バル」「ライブラリー」など5つのゾーンに分かれており、各ゾーンでそれぞれ東北とのつながりを体感できます。

まず、入口を入ってすぐの位置にあるのは、東北のさまざまな情報に触れることができる「わたすマーケット&ギャラリー」。マーケットでは、スタッフが東北に通うなかで見つけた地元の海産物やスイーツなどの商品を販売しています。また、ギャラリーには、「東北のおいしいもの」の写真を展示しています。今までは「わたす日本橋」の取り組みの記録や、「わたすが伝えたい風景・東北」など、定期的に内容を入れ替えて展示しています。

入口から眺める「わたすマーケット&ギャラリー」
「灯りキリコ」が照らすマーケット
「東北のおいしいもの」を展示したギャラリー
各県の紹介リーフレットや「わたす新聞」も置かれている

「わたすダイニング&バル」では、東北の食材をふんだんに使った料理を提供しています。ご飯には宮城県産ひとめぼれ、味噌汁には岩手県陸前高田の手作り味噌、サラダに仙台野菜を使用するなど、食を通じて東北の魅力を発信。酒類についても、東北各地の地ビールや地酒を豊富に揃えています。また、テーブルに敷く紙製ランチョンマット(期間限定)で、東北の祭りや地ビールなどについて地図入りで紹介するといった工夫もあります。

カウンター席もあり、一人でも利用しやすい「ダイニング&バル」
仙台野菜たっぷりの「わたすキッシュ」
ランチョンマットでも情報発信

そのほかに飲食ができるゾーンとして、最大12人で利用できる個室「わたすプライベートルーム」と、「わたすLOOP+」があります。

「わたすプライベートルーム」
「わたすLOOP+」

「わたすライブラリー」には、東北に関する本、絵本、写真集などを設置。店内で食事を待つ時間などに、自由に読むことができます。

「わたすライブラリー」には多彩な本が並ぶ

「東北にゆかりのある方も無い方も、来店して目にした東北の情報をもとに話題が盛り上がったり、『こんな場所があったんだ』『今度行ってみようかな』などと関心を寄せたりするきっかけになったら嬉しいですね」(中村さん)

総合不動産デベロッパー初となる「FSCプロジェクト認証」を取得

この新店舗の大きな特徴は、内装木材の92%に南三陸町産のFSC認証材を使用していることです。総合不動産デベロッパーでは初となるFSCプロジェクト認証を取得しています。(認証番号:SA-PRO-008269)

木目が美しい内装

「店舗移転にあたって、南三陸町のFSC認証の取り組みを知りました。そして、現地の製材所の社長様のご助言をいただき、新店舗はプロジェクト認証というFSC認証の取得が可能だということが分かりました。将来世代のために森を守るFSC認証制度の考え方は、当社の社章『&マーク』に象徴される『共生・共存』『多様な価値観の連繋』『持続可能な社会の実現』という理念にも合致します。このような国際認証の取得プロセスは簡単ではありませんが、社会的な意義を感じて取り組みました」(中村さん)

三井不動産の社章「&マーク」。同社はグループ長期経営方針「VISION 2025」を定め、街づくりを通して持続可能な社会の構築を実現し、様々な社会課題を解決することを目指している

中村さんにとってこのプロジェクトへの関与は、FSC認証についての理解を深める良い機会になったといいます。

「日常生活のなかでさまざまな商品にFSCマークを目にするようになりましたが、その意味をきちんと説明できる人はまだそう多くないかもしれません。『わたす日本橋』新装を機に、社内で着実にFSC認証の認知が高まったと感じます。この存在が、社内外にかかわらずたくさんの方にFSC認証を知っていただくきっかけになったら嬉しいですね」(中村さん)

南三陸杉に囲まれた、温かみのある空間に

内装に使われた南三陸杉は、栄養が少ない岩盤質の土質と、雨が少ない環境で育ちます。あまり太らず、ゆっくりと成長するため、年輪が密で強度が高いことや、芯材の薄いピンク色が醸し出す美しさが特徴です。そんな南三陸杉を天井、壁、建具、カウンター、化粧梁、パネルなどにふんだんに使用した室内は、温かみがあり、ほんのり木の香りも漂います。

随所にFSC認証材を使用

「自然の木に囲まれた空間は、お客様からたいへん好評です。無垢材を使っているので、経年によりひびや割れも生じるのですが、それがまた自然の風合いの良さ。メンテナンスして大切に使っていきたいと思います」(中村さん)

ハードとソフトの両面から東北を堪能できる「わたす日本橋」の取り組みは、単発のイベントとは異なり、継続的に東北と東京をつなぐ点に大きな価値がありまます。今後について、「長く続けていくことが大切。できることをできる範囲で、地道に取り組んでいきたい」と中村さんは語ります。

東北の情報に触れたい、美味しい食事をとりたいという方はもちろん、南三陸杉に囲まれる心地良さを感じてみたい!という方も、気軽に立ち寄れる「わたす日本橋」。今後のさらなる進化が期待されます。

三井不動産株式会社
東京都中央区日本橋室町2丁目1番1号
https://www.mitsuifudosan.co.jp/

FSC C011851

RELATED POST関連記事