浜松のFSC認証材を地元のシンボル的建物に活用
2010年3月にFSC®認証を取得した浜松市。認証材の生産量がトップクラスを誇る同市で、徳川家康ゆかりの「浜松城」と、市立の文化施設「浜松子ども館」のリニューアルにあたり、城・公共の類似児童施設としては全国初のFSC®プロジェクト認証を取得しました。その背景や目的、そして実際のプロジェクトの流れについて、浜松市職員として事業を推進した藤江俊允さん、そして空間の総合プロデュースを担った乃村工藝社の田代春佳さんにお話をうかがいました。
FSC認証を取得し、地産地消での天竜材活用を推進
浜松市は静岡県西部に位置し、日本で二番目に広い市域面積の66%にあたる1,030キロ平方メートルが森林という自然豊かな市です。三重県の尾鷲、奈良県の吉野と並んで日本三大美林の1つである静岡県の天竜を擁し、森を「宝の山」とするための取り組みが進められています。
実は森林のほとんどが、2005年の合併によって増えたものであり、森の活用が本格的に始まったのは、2007年の「浜松市森林・林業ビジョン」を機に、2010年にFSC認証(FM認証:国・県・市内森林組合でのグループ認証)を取得してからでした。森林組合が連携して取得したのは全国初であり、現在は、市町村別では全国1位、取得者別では2位という規模を誇ります。市内の約70事業体が木材関係のCOC認証を取得しており、全国で最もFSCのサプライチェーンがつながっている地域の一つです。
「森林を守るには、大切に育てるだけでなく、価値あるものとして売れるようにすることが大切。大量生産よりもブランド化を意識し、国際的にもアピールできたらとFSC認証を取得したんです」と藤江さん。
市の「SDGs未来都市計画」の中では、森林関係における目標値として「林業・木材産業の成長産業化」「天竜材の利用拡大」「持続可能な森林経営の推進」が掲げられています。具体的には、FSC®認証の天竜材の地産地消を推進する「天竜材の家百年住居(すまい)る事業」や「天竜材ぬくもり空間創出事業」などの助成事業、東京オリンピック・パラリンピックの関係施設(有明体操競技場の外装・選手村)に天竜材への供給などを実施。また公共部門への活用も推進しており、2022年5月現在で天龍区役所や浜松中部学園など19の施設にFSC®認証の天竜材が使用されています。
浜松城の「情景の層」の床材にFSC認証の天竜材
そして2021年1月、徳川家康が築城して450年という節目の年に、「浜松城」のリニューアルオープンに合わせて、展示エリアの3階の床板にFSC®認証の天竜材を使用しました。1階から2階は展示中心、3階は「情景の層」と呼ばれ、浜松の街を一望できる展望台となっています。
「南に遠州灘、西に浜名湖、晴れた日には東に富士山を望むことができ、どの方角も素晴らしい眺めです。特に北側は武田信玄との激戦となった三方ヶ原を望み、その先には天竜材の森の稜線が見渡せます。地名『浜松』の命名者であり、情熱あふれる若き日の徳川家康公がどんな気持ちでこの景色を眺めたのか、想像は尽きません。FSC®認証の天竜材を使うなら、この展示のクライマックスである3階の床材がふさわしいと考えました」(藤江さん)
金色に塗られた天井には家康以降の歴代城主の12家紋があしらわれ、それと対比させる形でFSC®認証の天竜材はシックな色味に仕上がっています。
「浜松市の森は人工林が7割を超え、木材はスギとヒノキがほとんどです。その中からブランド杉である天竜杉の間伐材を無垢で使用し、金色に輝く家紋と際立たせるために、ダークブラウンのオイル塗料を選定しました」(田代さん)
「浜松子ども館」で天竜材のぬくもりを感じてほしい
そして、2021年4月には市の子どもを中心とした文化会館「浜松子ども館」のリニューアルにおいては、公共の類似児童施設として全国初のFSCプロジェクト認証を取得しました。
テーマは「はままつ まるごと 大冒険!」。自然に恵まれた浜松で、地域の特色を盛り込んだ体験を提供することで、地元に愛着を持ってもらいたいという思いが込められているといいます。たとえば『みずべ』は遠州灘の海をイメージ、『まち』は楽器の街であることを表すモチーフというように、浜松を体験できる5つのゾーンに分かれており、FSC®認証の天竜材は『だいち』に使用しています。
「実は、浜松子ども館のスタッフから『リニューアルにFSC認証の天竜材を使いたい』と提案があったんです。地域に地域材の利用が普及してきたのを感じて嬉しかったですね。当初は床材だけの予定でしたが、子どもたちに木のぬくもりを感じてもらいたいと思い、オリジナル遊具の下地材にも採用しました。木肌に熱したコテで焼き跡をつける『焼き絵』で天竜の森に住む生き物たちを描いてもらい、浜松ならではの遊び場になったと思います。さらにワークショップなどを行うホールや休憩スペースなどにも多用したことで、木を感じられる施設になりました」(藤江さん)。
他にも、ホールや休憩スペースなどにも子ども館では、林業関係者による「木こり体験」も実施するなど、子どもたちにFSC認証や地元の木材を使うことの大切さを紹介する活動も行っています。
コロナ禍の中、協力し合いながらプロジェクトを推進
「浜松城」と「浜松子ども館」の各プロジェクトの空間プロデュースを手掛けた株式会社乃村工藝社では、FSC®認証の天竜材を扱うにあたり、認証を取得した製材加工チームを新たに編成。浜松城については申請代行も行いました。
乃村工藝社の田代さんは、「2つのプロジェクトの管理責任者については、浜松子ども館は浜松市、浜松城は乃村工藝社が担いました。第一ステップである「木材加工のチーム編成」においては、浜松市に相談するとすぐにCoC認証取得者を紹介してもらい、地域でサプライチェーンが出来上がっていることの強みを感じました」と振り返ります。
その後、「②マニュアル作成」、「③FSC認証機関とのライセンス契約」とそれぞれ進み、さらに「④教育訓練」を実施。管理責任者として、浜松子ども館は浜松市、浜松城は乃村工藝社が主催となり、プロジェクトに携わる人々が注意すべき手法や流れについて細やかに説明を行いました。
TBSとコラボしてオンラインワークショップを実施
「浜松城のチームの方では私たち含め、初めてFSCプロジェクト認証に取り組む事業者もいたので、『FSC認証を取得する意義』など基本的なことから共有する時間を持ちました。FSCのプロジェクトでは、現場の方に書類の作成など一手間おかけすることになりますが、そういったプロセスが、トレーサビリティへの信頼性を担保し、FSCのプロジェクトとして正式に認定され、同時に浜松市の健全な森の資源循環への貢献に繋がることをチームメンバーと共有しました」(田代さん)
「さらに業務面での一番の注意どころは、FSC認証材以外が混入しないこと。それも現物もさることながら、書類もしっかり第三者が見ても明らかにわかるように、管理する必要があります。面倒な部分もありますが、どなたも快くきめ細やかに対応してくださいました。FSCについて説明する機会を設けたことで、社会的意義の大きい取り組みであると理解し、誇りをもって参加いただけたと感じています」(藤江さん)
なお、プロジェクトが始まった頃は、まさにコロナ禍の最中。「④教育訓練」および「⑤認証機関による現場審査」においては、リモートでの実施が積極的に行われました。
「リモートによる検証はFSCでも経験が少ないとのことでしたが、大変スムーズに実施することができました。その後、両方とも『⑥最終現場審査と書類検査』に約1ヶ月弱かかりましたが、なんとか2021年1月27日のオープニングに間に合わせることができました」(藤江さん)
天竜材と共にFSCの「森の資源循環メソッド」も広げる
「浜松城」「浜松子ども館」とも、リニューアルから約1年が経ち、コロナ禍の影響もありながらも、多くの来場者が訪れました。今後イベントなども活発に行われ、ますます利用者が増えることが期待されています。その多くの方に、木という資源の魅力や大切さを感じてもらえることでしょう。
「今回のプロジェクトで、FSC認証であるとアピールすることで、木材を適正に活用することの意味を広く伝えることができると感じました。まだまだ浜松でもFSC認証の認知度は25%程度(全国は21.9%)ですが、今後は地元の天竜材と併せて訴求しながら、森の資源を循環させる理想的な形として認知されるよう努めていきたいですね」(藤江さん)
「FSC認証の天竜材を活用したプロジェクトに関わることで、サステナブルな森林資源の輪の一員となれたことに大きな意義を感じています。森林保全はもちろん、浜松市や利用者の皆さんの思いに応え、林業や製材に関わる人たちも含めて林業の活性化につながるなど、一石何鳥にもなった取り組みだと思います。企画・設計・建築に関わった多くのスタッフにとっても大きなモチベーションアップになったのは間違いありません」(田代さん)
今後も、浜松市ではFSC認証の天竜材を活用した建造物を増やしていくとのこと。FSC認証のメッセージとともに、天竜材の活用に加え、天竜モデルともいえる「地産地消による適正な森林資源の活用の考え方やメソッド」についても全国に広がることが期待されています。
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