令和に入って最初の「樹木雑学」は、皇室の行事で使う樹木についてです。
先日、皇位継承にまつわる行事の一つ「大嘗祭(だいじょうさい)」で使うお米の産地が、伝統的な占いにより決まったと報じられました。その占いでは、ウミガメの甲羅以外にもある木が使われているんです。
それはどんな木か…。樹木の達人・三崎孝平さんが解説します。
亀甲をあぶるために必要な波波迦木(ははかぎ)の正体
元号が「平成」から「令和」に代わりました。皇位継承による多くの皇室行事が執り行われていますが、その中の一つに「大嘗祭」があります。大嘗祭は、天皇が即位の礼の後、初めて行う収穫祭(新嘗祭)のことで、この儀式では、その年に採れた新米が使われます。
その新米の産地をどこにするのか決めるため、ウミガメの甲羅を火にかざして表れたヒビの状態(亀卜=きぼく)を見る「斎田点定(さいでんてんてい)の儀」が行われます。
儀式では、亀甲をあぶるために「波波迦木」を燃やしますが、この「波波迦木」が「ウワミズザクラ」です。
「ウワミズザクラ」という名前の由来は二つあります。一つは、亀甲で占いを行う際に、この材の“上面”に溝を彫って使ったので「ウワミゾザクラ(上溝桜)」➞ウワミズザクラという説。もう一つは、“占い”をするときに溝を彫って使ったことから「ウラミゾザクラ(占溝桜)」➞ウワミズザクラの説があります。
ウワミズザクラのサクランボは鳥もクマも大好物
北海道南西部から九州まで幅広く自生するサクラの仲間で、樹高は10~20mになりますが寿命はそれほど長くなく、老齢化するとともに幹に腐朽が入り、大径木(だいけいぼく)とはなりません。材は堅く緻密なことから、漆器の木地、印材、版木、建築材、傘の柄、ナタの柄等に使われますが、臭気がきついこともあって評価は高くないようです。
4月から5月にかけて写真のように、直径6~8ミリほどの小さな花が集まった白いブラシ状(総状花序)の花を咲かせます。通常、サクラの花と聞くと、ソメイヨシノのような花をイメージするかもしれませんが、色も形もちょっとかけ離れていますね。また、通常だとサクラの果実は開花後、2ケ月を過ぎた初夏に成熟して、いわゆるサクランボができるのですが、ウワミズザクラの仲間(イヌザクラ、シウリザクラなど)は秋になって成熟します。
ウワミズザクラの果実は食べられるので、鳥やツキノワグマもこの実が大好物!実を食べて移動した後、糞とともに種を散布し、分布を拡大してきたため、ウワミズザクラは山野の至る所に自生しています。
<「森の達人」こと、三崎孝平さんプロフィール>
環境保全に貢献するという目的で設立されたエコシステムアカデミーのシニアインストラクターや全国森林インストラクター会会員として活躍中。日本各地の学校や森を飛びまわり、森の大切さや、FSC森林認証について伝えています。このコーナーでは、森や自然がますます身近になる楽しい情報を「樹木講座」としてお届けしています。
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