2023.1.25
【第1回】冬芽を楽しもう!
はじめまして、ケーサンです。京都・長岡京に住み、森林インストラクターとして「森・木材・紙のサイクル」や「森林認証」などをテーマに活動しています。好きな言葉のひとつ、寺田寅彦の「自然現象の不思議には、自分自身の目で脅威しなければならぬ」を胸に、自然の不思議や楽しみ方を”あっちこっち”行きながら紹介していきたいと思います。
さて、今回のあっちこっちのテーマのきっかけは、図書館の児童書架でみつけた「ふゆめ がっしょうだん」(福音館書店)♪♪。楽しい写真絵本で、ユーチューブなどでも紹介されていますので、ぜひ一度、見てみてください。
寒さの苦手な僕ですが、この写真絵本にはげまされ、冬のある日、10倍ルーペとデジカメ、「冬芽ハンドブック」をもって、野外観察に出かけました。さて、どんな冬芽がみつかるでしょうか。
花の季節が待ち遠しい「センダン」の冬芽
住宅街を歩いていて、早速見つけたのがこれ。ひょうきんな表情で面白いでしょう。「センダン」の冬芽です。
公園や寺院、河原などでよく見かけますが、住宅の生垣でしかも若木。目の高さでしっかり観察が出来ました。葉痕(葉の落ちたあと)には3個の維管束痕、その上部に葉の冬芽(葉芽)が鎮座しています。
この樹木、“獄門の木”とも呼ばれ、昨年のNHK大河の原典となった「吾妻鏡」にも出てきます。万葉集にも詠われ、古くから日本人に親しまれた樹木です。
妹が見し あふちの花は 散りぬべし 吾が泣く涙 いまだひなくに 山上憶良
“あふち”はセンダンの古語で、初夏になると薄紫の花が咲きます。その散る様に、妻を亡くした悲しみを託して詠じたのですね。昔の人は、今以上に樹木に親しみを感じていました。私たちは、もっともっと樹木や自然に目を向けたいもの。花の時期にまた見に来たいと思います。
ふわふわした毛に覆われた「ヌルデ」の冬芽
続いて、小畑川から乙訓寺、そして光明寺を巡りました。小畑川は亀岡へと続く老ノ坂付近が源流で、桂川に流れ込んでいます。
ここで見つけたのはヌルデの冬芽。パイオニアプランツ(先駆植物)だけあって、冬芽もなかなかの面構えです。
ヌルデの種子は地中にずっと潜伏し、倒木などで日照条件が改善されると発芽します。冬芽はビロードのような毛に覆われ、その周りを葉痕がぐるりとV字型に囲んでいます。今か今かと春を待っているようですね。
乙訓寺で「イロハモミジ」「ハクモクレン」「ボタン」の冬芽を観察
長年住んでいるわが町、長岡京ですが、この地域が“花菜(はなな)”の産地であることを最近知りました。“花菜”とは“菜の花”のこと、いかにも京都らしい言い回しです。開花前の蕾が食材となり、稲の裏作として田んぼのあちこちで栽培されています。
1〜2月の厳寒期が収穫の最盛期で、生産者さんは早朝から凍える手で花菜を摘みます。栄養価に富み、特にビタミンAを多く含んだ食材です。ぜひ、一度、花菜を食してみてください。ほろにがさが一足早い春を感じさせてくれますよ。
花菜畑を過ぎると、その昔、空海が別当として在住した乙訓寺があります。静寂な境内には見応えのある樹木がたくさんあり、中でも、推定樹齢400~500年といわれる「クロガネモチ」が異彩を放っています。
いくつか冬芽を見つけましたよ!イロハモミジは対生で、赤くて可憐な冬芽が2個ずつ対になっています。冬芽を保護する数枚の芽鱗をまとっていることがわかります。葉痕は細くて小さな三日月形をしています。
ハクモクレンの花芽は大きく、長い毛におおわれて、とても温かそうです。春の開花時期には、ぜひ観察に訪れることにしましょう。
ボダイジュの苞を持った種子が風に飛ばされ、そこかしこに落ちていました。残念ながら石の上では発芽は叶いませんね。
乙訓寺は別名“ボタン寺”とも呼ばれ、境内にはたくさんのボタンが植えられています。綺麗なボタンの冬芽を撮影できました。“牡丹まつり”では、それは素晴らしい大輪のボタンの競演が見られます。コロナ発生以後、中止が続いていますが、今年はぜひ開催されますように!
光明寺で三大冬芽の1つ「ネジキ」を観察
乙訓寺から西山山麓にある光明寺まで、緩やかな登り道となります。光明寺は秋の紅葉で有名ですが、今回はその裏山に多く自生する「ネジキ」の冬芽の観察が目的です。
えんじ色の整った冬芽は二枚の芽鱗に包まれ、清楚な趣を感じます。葉痕は半円形、弧状になった維管束痕が一つ見えます。冬芽にも“三大美芽”というものがあって、「ネジキ」はその一つなのだそう。後の二つ、コクサギとザイフリボクは残念ながら見つかりませんでしたが、ぜひ、お近くの樹林や植物園などで探してみてくださいね。
「トサミズキ」と「アカメガシワ」の冬芽もご紹介
今回の散策以外で見つけた冬芽を2つお見せしましょう。1つは、みぞれになりそうな小雨の中、京都府立植物園で撮った「トサミズキ」の花芽です。今にも落ちそうな水滴が魚眼レンズになって、背景の木々を”倒立収斂”しています。
もう一つは、畑で撮った「アカメガシワ」の冬芽。これもヌルデと同様のパイオニアプランツ。まじまじと見るのは初めてですが、こちらもしたたかな風貌ですね。
いろいろな冬芽を紹介してきましたが、それぞれ独特な模様=“葉痕”がありましたね。冬が近づくと、樹木は枝と葉で水の受け渡しをする“維管束”にコルク質の“離層”を作り、管を塞いでから葉を落とします。その痕が“葉痕”になるのです。葉の付け根の形や維管束の数、その位置は樹木で様々です。そして葉痕の上部や周辺に次世代の冬芽ができて、それぞれ個性豊かな表情を演出しています。「ふゆめ がっしょうだん」の誕生というわけです。
通学や通勤で通いなれたいつもの道。その沿道にたたずむ樹木たちにほんの少しだけ、意識を向けてみましょう。厳しい寒さに耐える可憐な冬芽を見つけると、きっと温かな気分になるはずです。
<ケーサンさん プロフィール>
環境保全に貢献するという目的で設立されたエコシステムアカデミーのシニアインストラクターや全国森林インストラクター会会員として活動しています。工学博士号を取得し、かつては製紙会社で銀塩製品の研究開発に従事していました。謡曲や写真を嗜み、最近の読書は宮沢賢治とビッグヒストリー。
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