2020.12.1

【第19回】お正月に飾りたい「縁起のよい“赤い実”」

花の少ないこの時期に赤い実をつける植物は、お正月の縁起物としても人気があります。葉の緑色とのコントラストも美しく、冬の寂しい景色に彩りを添えてくれるのが魅力です。でも、一見どれも同じように見える赤い実も、実は、複数種類あることをご存知ですか?

今回は、お正月に飾られる縁起の良い赤い実を5種類ほど、縁起が良いとされる理由と合わせて、森の達人・三崎孝平さんがご紹介します。

「千両」と「万両」

まずひとつ目は、「センリョウ(千両)」(センリョウ科センリョウ属)です。

センリョウ

中国から伝わった元々の漢名は仙蓼果(センリョウカ)でしたが、発音が似ていることから、江戸時代に「千両(センリョウ)へと変わりました。「富」や「お金の単位」という意味が連想されるセンリョウは、繁栄を祈る人々の思いを込めてお正月飾りに選ばれたようです。

二つ目は「マンリョウ(万両)」(サクラソウ科ヤブコウジ属)です。

マンリョウ

センリョウよりも実が大きく数も多くて豪華なので、「千両」よりも上の「万両」と名付けられたようです。また、マンリョウは実った果実の寿命が長いことも縁起が良いとされる理由だと言われています。

「センリョウ」と「マンリョウ」の大きな違いは、実ができる場所です。センリョウの実が葉の上に実るのに対して、マンリョウの実は葉の下側に垂れ下がって実ります。

栽培はどちらも簡単で、種を撒くとよく発芽します。
栽培の手順は、まず熟した果実を採取し、果肉を水洗いして完全に取り除きタネだけにします。タネは乾燥させると発芽能力が失われるので、タネだけにしたらすぐに撒きます。そして戸外に置き、乾かさないように管理すれば、春には発芽します。挿し木でも増やすことができます。

マンリョウに比べてセンリョウはちょっと寒さに弱いので注意が必要ですが、半日陰の場所ならよく育ちます。

「百両」「十両」「一両」も!

ところで、マンリョウ、センリョウに続いて「百両(ヒャクリョウ)」「十両(ジュウリョウ)」「一両(イチリョウ)」もあるのをご存じでしょうか?

「百両」は、「カラタチバナ(唐橘)」(サクラソウ科ヤブコウジ属)のことで、東以西から沖縄を原産地とするヤブコウジの仲間です。

ヒャクリョウ(カラタチバナ)

カラタチバナを「百両」と呼ぶようになった由来は、中国の古い植物名として「百両金(ヒャクリョウキン)」という名が江戸時代の初めに伝わり、その頃園芸家の間で高値で取引されていたカラタチバナに「百両金」と云う名を当てたのが始まりとされています。

「十両」は「ヤブコウジ」(サクラソウ科ヤブコウジ属)のこと。
赤い実がセンリョウやマンリョウに似ていることから、ヤブコウジを「十両」と呼ぶようになったようです。

ジュウリョウ(ヤブコウジ)

そして、「一両」は「アリドオシ」(アカネ科アリドオシ属)のことです。

「アリドオシ」は、関東以西の本州、四国、九州及び沖縄に自生するアカネ科の常緑低木です。葉の付け根に葉と同じくらいの長さの鋭いトゲがあるのが特徴で、このトゲが小さなアリをも刺し通すとして「アリ通し」と名付けられた説と、トゲがたくさんあって、アリのような小さな虫でないと通り抜けられないという説があります。

イチリョウ(アリドオシ)

アリドオシを「一両」と呼ぶようになった由来は、江戸時代の言葉遊び「千両、万両、有り通し」(お金は千両も万両も年中有り通し、一生お金に困らない、 金運に恵まれますようにと、縁起をかついだ語呂合わせ)からアカネ科の「アリドオシ」が「一両」となったと言われています。

名称や果実の数などから、お金にちなんだ縁起のよい名前に

これらの名前がついた順番は諸説ありますが、まず江戸時代に異常な高値をつけ売買されていた「カラタチバナ」が「百両金」と呼ばれたことから「百両」になり、次に「仙蓼果(センリョウカ)」の“仙蓼”の発音が「千両」に似ていることから「千両」に。続いて、千両よりも実が大きく、実の数も多いことから「万両」が名付けられたと言われています。

「十両」「一両」は、明治時代になってから呼ばれるようになったと言われており、赤い実がセンリョウやマンリョウに似ていることからヤブコウジが「十両」となり、最後に、江戸時代の言葉遊び「千両、万両、有り通し」の語呂合わせから、「アリドオシ」が「一両」となったと言われています。

いずれにせよ、常緑で冬に赤い実をつける植物が、その名称や大小、果実の量などによってお金にちなんだ縁起の良い名前を付けられたようです。

お正月には、「千両、万両、有り通し」の言葉遊びにちなんで、センリョウ・マンリョウ・アリドオシの寄せ植えを飾ってみてはいかがでしょうか。

<「森の達人」こと、三崎孝平さんプロフィール>
環境保全に貢献するという目的で設立されたエコシステムアカデミーのシニアインストラクターや全国森林インストラクター会会員として活躍中。日本各地の学校や森を飛びまわり、森の大切さや、FSC森林認証について伝えています。このコーナーでは、森や自然がますます身近になる楽しい情報を「樹木講座」としてお届けしています。

FSC C011851

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