2019.6.13

日本橋三越本店の内装にFSC認証材を使用。国内外のサプライヤーと共にエシカルな市場開拓を進める

株式会社三越伊勢丹プロパティ・デザイン

 
「一歩足を踏み入れるだけで、ウキウキした気持ちになれる」
デパートはそんな場所の一つかもしれません。
 
日本初のデパートでもある日本橋三越本店では、現在約30年ぶりとなる大規模再開発(リモデル)を進めています。2018年10月には第1期リニューアル工事が完了。新装されたインフォメーションカウンター(上の写真)やレセプションにはFSC認証材が使われています。さらにFSC認証材を使用した椅子「topo(トポ)」の販売も始めました。
 
製作を担ったのは三越伊勢丹グループ会社の三越伊勢丹プロパティ・デザイン(以下、IMPD)。2017年に同社六郷工場がFSC CoC認証を取得し、環境配慮への取り組みを進めています。今回はIMPDでFSC認証取得および調達を担当する環境創造事業部の小西陽二さんと高橋秀明さんにお話を伺いました

お話しを伺った方

環境創造事業部 生産管理部 製造担当 マネジャー
小西 陽二さん
小さい頃からものづくりが大好きで、ソフトウェア会社を経て2004年に入社。「自分がFSCに取り組んでいると知って、同僚たちが、FSCマークがついたティッシュの箱やコピー用紙の袋を『あったよ!』と持ってきてくれるようになりました(笑)」
 
環境創造事業部 生産管理部 プロダクト設計担当 担当部長
高橋 秀明さん
入社後は設計部門に所属し、その後20年近く営業を経験。ものづくりしている人たちのそばにいたい、という希望で再び設計の仕事へ。「当社の営業は図面の確認とか設計の調整も行います。20年のギャップはあるものの営業で経験したことは役に立っています」

デパートの「顔」となる場所に、FSC認証製品を置く意義とは

日本橋三越本店といえば、三越伊勢丹のフラッグシップ店舗(旗艦店)。さらにインフォメーションカウンターやレセプションは店舗の「顔」とも言えるところです。なぜ店舗を代表する場所にFSC認証材が使われたのでしょう。

直近の理由としては、2018年4月に三越伊勢丹グループの存在意義であり、目指す姿である「私たちの考え方」として、『人と時代をつなぐ三越伊勢丹グループ』を掲げたこと、そして2018年5月に新たに策定した調達方針に基づくものだといいます。

もともと三越伊勢丹グループがFSC認証紙をチラシに採用し始めたのは2008年頃から。過去にはグリーンサンタ基金や、音楽家・坂本龍一さんが設立した森林保全団体「more trees」とのイベント開催など、多岐にわたって生物多様性、森林保護といった環境への取り組みを進めてきました。さらに近年では、持続可能な社会との両立を目指し、衣料品の回収・リサイクルやシェアリングビジネスなどにも積極的に取り組んでいます。企業倫理の改訂や調達方針の策定は、そうした活動をさらに推進するためのものでした。

そして、IMPDの工場がFSC CoC認証を取得した翌年に、日本橋三越本店のリモデルという機会を得たことから、お店の顔となるインフォメーションカウンターとレセプションにFSC認証材を採用することになりました。さらに内装のデザインに合わせて、FSC認証材を使用した隈研吾さんのデザインによる新作椅子「topo」の販売も開始されたのです。

リモデルした本館1階。『白く輝く森』というデザインコンセプトがもとになっている

リモデルした本館1階。『白く輝く森』というデザインコンセプトがもとになっている

(写真左)本館1階南口のインフォメーションカウンターのテーマは“屏風のおでむかえ” (写真右)本館1階 中央ホール レセプション

(写真左)本館1階南口のインフォメーションカウンターのテーマは“屏風のおでむかえ” (写真右)本館1階 中央ホール レセプション

これからの需要増を見込んでFSC CoC認証取得を決意

インフォメーションカウンターは本館1階の3カ所と新館1階の1カ所に。さらに中央ホールのレセプションにもFSC認証材が使われています。
製作を担当したIMPDは、5つ星ホテルや外資系オフィスの役員室、欧米のハイブランドショップの内装設計や家具・什器、備品類などの建装・デザイン事業を展開してきました。特に同社直営の六郷工場は100年にわたってオーダーメイドの高品質な家具を製造するなど、木製品の世界では知る人ぞ知る存在です。

その六郷工場でFSC CoC認証を取得したのは2017年12月のこと。取得に向けて準備に入ったのは、その半年前の5月に入ってからでした。

当時IMPDでFSC認証の取得を担当し、現在はFSC認証材の調達に携わる小西陽二さんは「認証取得の背景にはグローバルな潮流があった」と語ります。

小西陽二さん

小西陽二さん

「当社の顧客の中でも外資系企業は環境への取り組みについて意識が高く、エシカル消費への対応が日本に比べて進んでいました。さらに2020年に東京五輪・パラリンピックの開催が決定し、環境NGOや投資家などから環境への取り組みについてグローバルな目線で見られることも考えられました。
そうしたことから、今後において国際規格であるFSC認証品の受注ができるように、自社直営の六郷工場でFSC CoC認証を取得することを決定したのです」

不安材料を解消しながら、マニュアルを作成

認証取得にあたり、小西さんと共に担当した高橋秀明さんは「以前からFSCという言葉は聞いていましたが、まずセミナーに出席するなど、基本的な勉強からスタートしました」と振り返ります。

高橋秀明さん

高橋秀明さん

「最初はわからないことばかりで、いろいろなことが不安でしたね。たとえば、当社の場合、一点ものの家具が多く、使う材料も細かく異なっているので、その管理をどうしたらいいのか、専用倉庫をつくらないといけないのかと、難しく考え過ぎたこともありました。そこで、認証機関に作成したマニュアルをチェックしてもらったり、FSC認証を取得している取引先に相談に乗ってもらったりして解決してきたのです」
さらにFSC認証取得後に直面したのが「材料調達」という問題でした。取り扱う業者がまだ少ないため、FSC認証材を扱う業者の開拓から始めたそうです。

「家具には硬い材質の広葉樹の木材が必要ですが、日本のFSC認証材は針葉樹がほとんど。一方、輸入しようとすると様々な木材が大量に届くので、我々がつくる特注品の家具に必要な木材と異なると、余ってしまうこともあります。また木目なども考慮する必要があるので、要望に合うものをとなるとなかなか難しいのです」(高橋さん)

また家具や内装には「フラッシュパネル」という木製のパネルがよく使われています。表と裏にスライスした木材を貼り、内部にロールコアと呼ばれる紙製の材を使って厚みを出しつつ軽量化したもので、組み立てや分解が簡単で扱いやすく、経費や資源の節約にもつながります。それをFSC認証材で、かつ国内でつくれるところがないか、今も継続して探しています。

下がブラックウォールナットの無垢材。中身が詰まっていてかなりの重量感。上がフラッシュパネル。蜂の巣のような材が紙でできたロールコアと呼ばれるもの。

下がブラックウォールナットの無垢材。中身が詰まっていてかなりの重量感。上がフラッシュパネル。蜂の巣のような材が紙でできたロールコアと呼ばれるもの。

「品質もデザインも、そしてエシカルな調達もあきらめたくないですからね。最高のものをつくるためには、とにかく情報収集は欠かせません」(小西さん)、「思わぬアクシデントがあってもすぐ対応できるように前もって必要な準備をしておくなど、納期に間に合わせる工夫をしています」(高橋さん)というように、満足のいくモノづくりのために、様々な工夫をしながらFSC認証材の調達にあたっています。

六郷工場内の製作現場。FSC認証材と他の木材が混ざらないよう置き場所を徹底している。FSC認証材を扱うようになってから、職人の皆さんも無駄に使わないように気を配って作業しているとのこと。

FSC認証材の椅子を製作することでBtoC市場にもアピール

一歩一歩課題を解決しながら準備をし、FSC認証を取得するだけでなく、生産体制も整えてきた六郷工場。それを広く市場に認知してもらおうと、2018年4月にプロジェクトチームを発足させました。そこに飛び込んできたチャンスが、冒頭で紹介した日本橋三越本店の改装でした。
「第一号案件はとにかくインパクトが大事だと考えていたところ、日本橋三越本店で何十年に一度の大リモデルを行うことが決定し、そのデザインを著名な建築家である隈研吾さんが担当すると聞きました。これはすばらしい機会に恵まれたと思い、FSC認証材をフル活用することにしたのです」(高橋さん)
隈研吾さんは木材を活用した様々な作品を手がけており、新国立競技場の建築デザインでも知られる有名建築家です。環境配慮への意識も高く、これまでにFSC認証材を使用した作品も発表しています。デザインが決まった段階でIMPDからFSC認証材を使うことを提案したところ、スムーズに実現へと至りました。
そして、日本橋三越本店のリモデルと同時に、FSC認証材を使用した、隈研吾さんのデザインによる新作椅子「topo」も発表し、受注販売を始めました。それまで六郷工場でBtoC向けの規格品を出したのは過去数例のみ。しかし、広く市場に認知されるためにも、一般の消費者に向けた製品を発売することも必要ではないかと考え、製作に踏み切りました。
椅子のデザインソースとなったのは、本館1階の通路から天女像のある中央ホールへ続く通路にデザインされた「樹冠」です。その美しい模様がそのまま家具へと展開されました。

同社の技術力により、「樹冠」の繊細なカッティングが再現されたFSC認証材の椅子「topo」。座面裏にFSCマークを刻印

安定供給のため、産地も含めたサプライヤーネットワークを強化

今後の課題は、六郷工場というファクトリーブランドとしての認知を上げること。そのためには、やはり調達が重要であり、FSC FM認証を持つ森林事業者やFSC CoC認証を持つ製材所、輸入事業者といった“川上”のサプライヤーに、IMPDがFSCへの取り組みを強化していることをもっと知ってもらいたいといいます。

「安定した認証材の供給ネットワークをつくるために、国内の産地にも直接足を運ぶこともありますが、今回の取り組みをプレスリリースや様々なメディアで発信したことで、六郷工場の認知が上がったことを実感しています。今後は外部材はもちろん、先ほどお話ししたロールコアなど内部材を製作できる事業者を開拓するなどして、FSC認証材の使用比率を高めていきたいと考えています」(小西さん)

高橋さんと小西さん
そして、サプライヤーだけでなく、クライアントへの訴求も重要になってきていることは明らか。オフィス・商空間の建装にも環境意識がますます高まる中で、デザイン的な特徴だけでは差別化が難しくなることが見込まれます。

「クライアントに選ばれるためには、品質やデザインに加えて“バックストーリーの差別化”が重要になってくるでしょう。そのためにも、FSC認証材で作ることの意義について、営業サイドからクライアントに提案できるように、もっとFSCへの知識を高めていこうと全社をあげて取り組んでいきます」(高橋さん)

今年3月には、もう一つのフラッグシップ店舗である伊勢丹新宿店のラウンジにFSC認証材の家具を納入しました。著名なクリエイターとのコラボレーションもいくつか計画されているそうです。今後さらに同社の取り組みが浸透していくことで、訪れた先のホテルの家具やブランドショップの棚がFSC認証材になっているかもしれません。

【取材先募集のお知らせ】
FSC応援プロジェクトでは、FSC認証製品を導入し、利用を推進する企業様を募集しております。
取材をご希望される方は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
お送りいただいた内容より、掲載可否を精査させて頂いた上での取材となります。
必ず掲載とならない旨、何卒ご了承ください。

株式会社三越伊勢丹プロパティ・デザイン
東京都新宿区西新宿3-2-5 7階/9階(環境創造事業部 総務・企画部 )
東京都大田区東六郷3-1-19 (六郷工場)
http://www.impd.co.jp/

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