2024.10.15

FSC認証材を軸にゼロカーボンを発表
ファニチャーブランド「D&D」の挑戦

オリバー 家具ブランド「D&D」

オフィスやホテル、医療・福祉施設など、ホスピタリティ空間のインテリアを手掛ける株式会社オリバー。サステナブルな取り組みは製品だけにとどまらず、2024年10月には製品のライフサイクル全体で二酸化炭素をオフセットするという「ゼロカーボンファニチャー」を発表しました。そこにはFSC認証材の活用が大きく貢献しているといいます。FSC認証取得からゼロカーボンファニチャー発表に至るまでの経緯、これまでの取り組みや今後の展開などについて、常務取締役の浦隅明弘さんにお聞きしました。

お話しを伺った方

株式会社オリバー
常務取締役 浦隅明弘さん
FSC認証を通じて知った速水林業さんの森の豊かさに感動し、プライベートでも訪れたことがあります。何代にも渡って手を入れられてきた森で、伐採された尾鷲ヒノキの美しさには、恐れすら感じました。

時代を先取り!家具業界で日本初のFSC認証を取得

1967年、オリバーは愛知県岡崎市で法人向けの総合インテリアメーカーとして設立し、市場のニーズをいち早く捉えて製品化するという姿勢で事業を広げてきました。近年はオフィスやホテル、店舗や医療関係施設などの”ホスピタリティ空間”に注力。顧客の要望に応え、既製品のほか、オーダーメイドの家具や什器、内装施工まで空間づくりをトータルで提供しています。

「おかげさまで多くの企業様にご利用いただき、おそらく皆さんも外出先で当社の椅子やテーブルに触れられていると思います。そうした中で、近年の顕著な市場ニーズの1つとして環境意識の高まりを強く感じています。実際、それに伴ってFSC認証材の使用を希望される企業様が増えてきました」

株式会社オリバー 常務取締役 浦隅明弘さん
株式会社オリバー 常務取締役 浦隅明弘さん

実は、オリバーのFSC認証取得は約20年前の2006年。家具業界では日本初の取得でしたが、数年は事業として成り立たせることが難しく、浦隅さんも「いいことなのになぜ広がらないのか、疑問を感じていた」と語ります。

「当時は自社ブランドの確立を模索している頃でした。そんな時に、欧州で森林保全への関心が高まり、FSC認証が広がりつつあることを知り、当社も取り入れるべきだと感じました。一方日本では、FSCジャパンもまだ設立されておらず、社内で誰も詳しくは知らないという状況。しかし、さまざまな認証がある中で、国際的に認められ、最も基準が厳しく、理にかなったものが最後に残るのではないかと考えました。そこでブランドの軸の1つであるサステナブルを体現するものとして、FSC材の使用と認証取得を決めたのです」

事業への活用に苦戦する中、G7サミットやオリンピックが追い風に

FSC認証の取得後は、官公庁などのプロポーザルへの参加、自社ブランドへの使用拡大などで、徐々に製品への活用を進めていきました。そして、自社工場に加えて、サプライヤーである15社にも認証の取得を依頼し、オリバーグループ全体でのFSC認証材活用を推進していきました。

「世の中に浸透させるには、FSCの付加価値を訴求しながらも、高額になりすぎないことが必須です。しかしFSC認証の材は種類がまだ少なく、満足できるデザインや品質と価格の折り合いをつけるのが難しくて大変でした。欧州で欲しかった材を見つけた時は嬉しかったですね。そうした苦労あって作り出した製品を世に問うために、初めてFSC認証製品を掲載したカタログを出したのが2010年のことでした」

FSC認証製品を掲載したカタログ「ecrozy」
FSC認証製品を掲載したカタログ「ecozy」

しかしながら、徐々に取り組みが進んでいたとはいえ、当時の消費者におけるFSC認証の認知率はわずか4%にも満たず。牽引役だった浦隅さんの部署異動などもあって、活動が停滞した時期もあったといいます。そんな折、2016年のG7伊勢志摩サミットへの提案の機会があり、ワーキングランチ用テーブルや椅子などの受注に成功しました。さらに2020年の東京オリンピック・パラリンピックでの貴賓室などにも、オリバーのFSC認証製品が採用されることとなりました。

2016年5月「G7伊勢志摩サミット」では、ワーキングディナーのテーブルなどにFSC認証の尾鷲ヒノキ材を使用。※外務省ホームページから引用
2016年5月「G7伊勢志摩サミット」では、ワーキングディナーのテーブルなどにFSC認証の尾鷲ヒノキ材を使用
※外務省ホームページから引用

「サミットやオリンピックへの採用が追い風となり、さまざまな企業様からご依頼をいただくようになりました。そして、改めて自社プロダクトブランドである『D&D』をFSC認証製品100%で再編成し、2022年7月より販売することにしたわけです。基本的には施設向けですが、近いうちにECを実現し、個人のお客様にも購入しやすくしたいと考えています」

また、「人にも環境にもやさしい空間」を体現するべく、リニューアルを行った東京日本橋の本社、名古屋のオフィスには、社長室の内装をはじめ、ミーティングブースやバーカウンター、ソファなど随所にFSC認証材を採用しています。

FSC認証材で囲まれた、木の香り漂う快適なミーティングブース
FSC認証材で囲まれた、木の香り漂う快適なミーティングブース

FSCを軸に工夫を積み重ね「ゼロカーボンファニチャー」を目指す

コロナを経て、オフィスへのニーズや環境配慮への関心の高まりなど、さらに社会が変わろうとする中で、「これからはFSC推進も全方位で取り組んでいきたいと思っています」と浦隅さん。「日本には国内の森林問題やゼロカーボンなど取り組むべき課題が山積みですが、FSC認証を掛け合わせることで私たちも解決に貢献できることがあると考えています」

その決意の表れが、2024年10月に公表された、製品の材料調達・生産から廃棄・リサイクルまでのライフサイクルにおいて、二酸化炭素をオフセットするという「ゼロカーボンファニチャー」です。いわゆるカーボンクレジット(温室効果ガスの排出削減量を売買すること)で、形の上で“なかったもの”にするのではなく、炭素を固定貯蔵している木材を活用し、加工工程では化石燃料ではなく再生可能エネルギーを使用するなどし、製造工程で排出される二酸化炭素を極力抑えています。さらに、使用後の製品を回収してパーチクルボードとしてリサイクルすることで、炭素を長期一定期間固定し続ける仕組みを構築し、製品のライフサイクルで排出される二酸化炭素を相殺しようという当社独自基準のものです。

ゼロカーボンファニチャーの概念図

材料調達・生産はもちろん廃棄・リサイクルまで全てが対象となり、たとえば、全国9箇所にあるチップ破砕工場への輸送トラックの排出分や、廃棄・焼却時の二酸化炭素についてもカウントされています。そして、FSC認証材なら第三者認証のもとで、材として使用した分の炭素が新たな植林や木々の成長によって吸収されることが明らか。ここにFSC認証材を活用するメリットがあるといいます。

「とはいっても、実際の計算をしてみるとFSC認証材や再生可能エネルギーの使用だけでは厳しく、当初は専門家にも『ゼロにするのは無理』と言われました。そこで、家具の材となる木材の切り出し作業で、どうしても発生してしまう端材が極力出ないように設計する、工場に近い森の材を探すなど、様々な工夫と努力を積み重ねてなんとか実現することができました。今後は、対応する製品を拡大し、永続的な取り組みとしていきたいと考えています」

サステナブルをベースに“Universal, but Unique”な真価を追求

そして今、オリバーでは目指す将来像として、デジタルを活用し、インテリアに関するあらゆるソリューションをワンストップで提供する「デジタル・インテリアソリューション・プロバイダー」というコンセプトを掲げています。

「ニーズが多様化する中で、デザインやメンテナンスなどハードとソフトの両面において、的確かつ迅速にソリューションとして提供できることを目指しています。そのためには製品づくりにおいて、FSC認証材の使用を含め、『ゼロカーボンファニチャー』というサスティナビリティは当然のものにしていきたい。その価値観を浸透させるためにも、さらにデザインや品質を洗練させ、居心地の良さや自社らしさの表現など、製品がもたらす価値で選んでいただければと思っています。選んでみたらFSC認証製品なのか、それならいいね、となることが理想ですね」

そんなオリバーのD&Dシリーズのコンセプトは「Universal, but Unique」 。シンプルで普遍的でありながらも、質感や、細部へのこだわりが感じられる。そうしたモノづくりを軸とし、デジタルの力を借りながら、使う人のニーズや思いに対応し、ソリューションとして提供していきたいといいます。

「まだ構想として打ち出したばかりで、製品のバリエーションも、ショールームやECといった販売チャネルもこれから拡充する必要があります。市場の反応を見ながら、個々のニーズや時代に合わせて柔軟に対応するために、新しいテクノロジーや手法は用いることになるでしょう。その一方で核となる考え方や姿勢は大切にしていく。その揺らぎのない普遍的な価値の提供という意味でも、20年前にFSC認証を選んでおいてよかったと改めて感じています」

普遍的でありながらオリジナリティを感じさせるモノづくりを通じて、サステナブルという価値も提供するオリバー。FSC認証取得から20年という節目に向けて、新たな飛躍が期待されています。


施設向けの家具シリーズ「D&D」
https://www.oliverinc.co.jp/products/dd/

ゼロカーボンファニチャー
https://www.oliverinc.co.jp/products/zerocarbon/

株式会社オリバー
https://www.oliverinc.co.jp/

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