積水化学工業「クラフトテープNo.500F」
- 商品の梱包や引っ越しの荷造りなど、幅広い場面で活用されているクラフトテープ。積水化学工業株式会社は2022年11月、国内で初めてFSC認証を取得した製品「クラフトテープNo.500F」を発売しました。その背景にはどのような戦略や意義があり、製品にはどのような工夫がなされたのでしょうか。製品開発にあたった機能テープ事業部の皆さんにお話を伺いました。
お話しを伺った方
- 積水化学工業株式会社 高機能プラスチックカンパニー 機能テープ事業部
- 部長 伊東 貴さん、係長 正木克枝さん、末澤絵里子さん
- FSC認証クラフトテープ開発の主要メンバーとして尽力した3人。伊東さん(写真左)は全体を束ね、海外担当の正木さん(右)はFSC認証取得を統括、末澤さん(中央)はパッケージデザインや販促ツールなどを担当。
FSC認証を武器に、海外市場進出へ
ESG経営に力を入れる積水化学工業株式会社は、世界中で最も持続可能性の高い100社とされる「Global 100」にも6年連続8回選出されています。そんな同社が、機能テープ事業の主力製品であるクラフトテープにおいて、2022年11月、国内で初めてFSC認証を取得した製品「クラフトテープNo.500F」を発売しました。
クラフトテープは、荷物を段ボールなどに梱包する際に使用される、クラフト紙を基材とした粘着テープ製品です。一般の消費者が日常生活で使うほか、食品メーカーの工場での製品梱包や、運輸業会社の荷造りなど、幅広い場面で活用されています。
同じく梱包用途に使用されるテープには、クラフトテープ以外にも、OPP(Oriented Polypropylene/延伸ポリプロピレン)を基材としたOPPテープがあります。同社ではそのどちらも製造・販売していますが、「近年は環境意識の高まりから、プラスチックの使用を大幅に抑えられるクラフトテープが注目されています」と部長の伊東 貴さん。そんな状況を受け、さらに環境に配慮した製品づくりを目指して取り組んだのが、FSC認証「クラフトテープNo.500F」の開発です。
背景には、これまで主に国内で販売していたクラフトテープを、世界に展開していくという戦略があります。
「世界に目を向けると、クラフトテープが広く普及しているのは日本ぐらいで、海外ではプラスチックテープが主流です。世界的な環境意識の高まりのなか、環境にやさしいクラフトテープを日本発信で広めていきたいと考えています」(伊東 貴さん)
世界に通用する製品づくりを検討するなかで、現場からあがったのがFSC認証取得のアイデアでした。
「特に欧米では環境意識の高い方が非常に多く、脱プラスチックの動きが顕著です。しかしながら、現地を何度か訪問してお客様とコミュニケーションするなかで、新しい製品を提案していくには、単に環境負荷が低いクラフト製というだけでは厳しいのではないかという話になったんです。そこで、森林破壊や違法伐採等の環境・社会的な問題のリスクの低い原材料が責任を持って調達、使用された証しであるFSC認証を取得することが、世界に打って出るのに大きな助けになると考えました」(正木克枝さん)
社内説明会を重ね、FSC認証についての周知を促進
国内初となるFSC認証クラフトテープの発売を目指し、2022年2月、同社機能テープ事業部と、クラフトテープの製造を手掛ける積水武蔵化工株式会社がFSC-CoC認証を取得しました。
そのプロジェクトのメンバーも、最初からFSC認証についての知識があったわけではありません。
「それまであまり意識していなかったけれど、お店やカフェでFSCマークが目に留まるようになり、世の中にはこんなにFSC認証製品があることに気づいた」
「環境に関するマークにはさまざまなものがあり、その1つひとつについてはよく知らなかったので、勉強になった」
…など、多くの気づきや学びを得ながら認証取得に取り組みました。そのなかで、FSC認証に対する信頼性も高まっていったといいます。
「厳しい審査規格に基づく管理体制の整備に携わって、こんなに厳格なのかと驚きました。しかし、だからこそFSC認証は世界中で広く信頼されているのだと思います。きっと今後も世界で存在感を発揮していくだろうと確信しました」(末澤絵里子さん)
FSC認証に関する社内の周知活動にも力を入れています。製品を取り扱う販売会社や製造する工場など、全国各地の幅広い部署のメンバーを対象に、FSC認証に関するオンライン説明会を何度も開催。FSCジャパンの広報担当者を講師に招いて開催したこともあり、多くの社員がFSC認証の意義やルールの理解を深めました。
CO2排出を大幅に削減
「クラフトテープNo.500F」の最大の特長はFSC認証を取得していることですが、それ以外にも環境に配慮したさまざまな工夫があります。
まず、基材がクラフト紙のためバイオベース率(製品の重量における生物由来の原料の使用率)は54%と高く、石油由来のOPPテープに比べ、製品ライフサイクルにおけるCO2排出量が大幅に削減されます。
同社が販売する全てのクラフトテープと同様、紙芯を手で簡単につぶせる「エコ紙芯」を採用していることで、使用後のごみの体積の削減につながります。また、同社クラフトテープ製品としては初めて、パッケージフィルムにバイオマスフィルムを使用。フィルム厚は従来品より10μm薄くすることで、さらに環境負荷を低減しています。
パッケージフィルムのデザインにも、新たな試みがなされています。
「従来の当社製品のパッケージデザインは武骨なものが多かったのですが、今回は森にやさしいというイメージがしっかり伝わるように、森の木と動物のイラストを入れた柔らかいものにしています。さらに、『森を守るテープ』であることを明記し、海外市場を意識して製品名を『KRAFT TAPE』と英語表記にするなど工夫しました」(末澤さん)
FSC認証製品をもっていることが誇り
国内初のFSC認証クラフトテープの発売に対し、製品を取り扱う量販店や競合他社からの反響も少なくありませんでした。
「クラフトテープは段ボールに貼って使うことが多いと思います。段ボールは既にFSC認証を取得しているものがたくさんあったので、『ついにクラフトテープもFSC認証を取ったか!』とのお声をいただきました。FSC認証の段ボールとセットで使っていただけたら嬉しいですね」(末澤さん)
市場からの歓迎を受け、早くも改良版のアイデアが浮上しています。現在の製品はFSCマークが紙芯にのみに印刷されているため、貼ったあとはFSC認証かどうかがわからなくなってしまいます。そこで今、テープ自体にFSCマークを印刷することが計画されています。
FSC認証製品づくりの第一歩として、「ラインアップの1つにFSC認証製品ができた意味は非常に大きい」と、伊東さんは強調します。
「実際に製品ができた今、我々のやっていることは間違っていないのだと自信がもてるようになりました。FSC認証製品をもっているということは、我々の誇りであり、環境に配慮していくんだという事業の姿勢が示すことができます。お客様との良好なコミュニケーションにつながる効果も期待できます」(伊東さん)
今後の方向性として見据えているのは、「すべてのクラフトテープをFSC認証にすること」だといいます。
「時間はかかるかもしれませんが、FSC認証に対する認知が一層高まり、これが特別な製品ではなく当たり前のものとして普段使いされるようになったらいいなと思っています」(正木さん)
最後に、環境に対するそれぞれの思いを伺いました。
「まだクラフトテープを知らない海外の方にも、ぜひこの製品を知ってほしい。環境に良い製品としての認識がもっと広がるよう、アピールしていきたいですね」(正木さん)
「4年前にアメリカ駐在から帰国し、いつの間に日本の夏はこんなに暑くなったんだ!と驚きました。少しでも地球温暖化を食い止める製品づくりに取り組まねばならないと、切実に感じています」(伊東さん)
「出産を控え、親の立場で子どもたちやその先の世代のために、今私たちにできることをしていきたいという気持ちが高まっています。地球温暖化や森林の減少の問題など、生まれてくる子どもと一緒に学んでいきたいと思っています」(末澤さん)
そんな熱い思いが込められたFSC認証クラフトテープ。消費者である私たちにも、環境に良い製品を選んで購入することが求められています。
- 積水化学工業株式会社
- https://www.sekisui.co.jp/
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