株式会社 山櫻
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ビジネスシーンで欠かすことのできない「名刺」。みなさんは、今お持ちの名刺がどんな紙でできているか、考えたことはありますか? 今回ご紹介する株式会社山櫻は、名刺・封筒・はがきなど紙製品の製造・販売を手掛ける、創業88年の老舗メーカーです。同社は、業界に先駆けて2006年にFSC認証を取得し、その取り組みを続けてきました。
そこにはどのような思いがあるのでしょうか。マーケティング部門部長の高﨑啓介さん、同部門営業企画グループの岡田綾子さんにお話を伺いました。
お話しを伺った方
- マーケティング部門 部長
- 高﨑 啓介さん(右)
- もともと営業部門にいた高﨑さん。現在の企画部門に異動となり、FSCの勉強会などを通してより深く学びを進めたことで、より一層FSCの必要性を実感したそう。「これまで学んできたことを自分なりに工夫して、これからもFSCについて伝えていきたいですね」
- マーケティング部門 営業企画グループ
- 岡田 綾子さん(左)
- 広報を担当されている岡田さん。ちょうどFSCへの切り替えがはじまった頃に入社し、FSCについて学びを深めてこられたそう。「FSCは森を守るだけではなく、森に住む原住民や動物にまで考えが及んでいることがすごいと思います。私たちが取り組むことで、FSCを当たり前にしていきたいです」
はじまりは「再生紙」。業界初、再生紙を使った名刺を世に送り出す
山櫻の創業は1931年。名刺の製造・販売からスタートし、「名刺と言えば山櫻」と言われるほどの地位を築いてきました。そんな同社が最初に環境問題に取り組んだのは、今からおよそ30年前のこと。まだ世間の環境意識が今ほど高くはなかった1990年に、はじめて再生紙を使用した名刺を作ったのがはじまりでした。
「当時はまだ、ようやく『リサイクル』というものに目が向けられはじめた頃でした。鈴木俊一都知事(当時)がカレンダーの裏紙を使って名刺を作ったことが話題となり、山櫻でも、環境保全に貢献していこうと、再生紙を使った名刺の開発に取り組むことになったのです」(高﨑さん)
しかし、先陣を切って再生紙を採用してはみたものの、当時の名刺は、1箱(100枚)約3,000円もする高価なもの。そんな価値ある名刺に「古紙を使うなんて何事だ!」という声もあったそう。それでも取り組みを続けるうちに、世間の環境保全への意識の高まりとともに、再生紙へのニーズが高まってきたといいます。
さらに、原料に木材を使わない “非木材紙”へのニーズも出てきたことから、1993年に非木材紙を使用した製品をラインナップに追加。2001年に施行されたグリーン購入法も後押しとなり、再生紙を主軸に、環境に配慮した製品を拡充していきました。
将来を見据えて、FSC認証を取得
そんな中、同社は2006年にFSC-CoC認証を取得します。
「当時環境対応商品の主軸としていた再生紙には、原料や製造過程の信用度を計る基準がありませんでした。一方でFSCは、世界基準で原料から加工・流通過程に至るまで厳しく管理された森林認証制度です。メーカーの責任として、FSC認証を取得するべきではないかということになったのです」(高﨑さん)
数ある森林認証の中でもFSCを選んだ理由について、岡田さんは次のように語ります。
「第三者による認証制度であることと、しっかりとした管理体制が決め手となりました。また、再生紙にはじまり、非木材、さらには間伐材等、環境に配慮した原料を採用していく中、次のステップとして国内のみならず世界規模の森林保全に貢献したいという気持ちもありました」(岡田さん)
「今すぐに切り替えるのは難しくても、この先きっと、FSCのような生産や流通の過程をしっかりと証明できる紙が求められる時代がやってくる。将来を見据えて、今から取得しておこうという気持ちでした」(高﨑さん)
再生紙からFSC®認証紙へ。環境と品質をあわせたストーリーに
それから2年後、同社が再生紙からFSC認証紙へ大きく切り替えるきっかけとなった出来事が起こります。
「2008年に製紙業界による古紙偽装問題が起こり、弊社が再生紙の生産を依頼していた製紙工場でも、古紙パルプの配合率に偽装があったことがわかりました。再生紙からFSC認証紙への切り替えが大きく進んだのはここからです。弊社には、しっかりとエビデンスのとれた信用度の高い紙を使っていく責任がある。業界を牽引するメーカーの責任として、これからはFSC認証紙を主軸にしていこう。『環境にいい』だけではなく、『環境』と『品質』をあわせたストーリーへと、この時から大きく転換していきました」(高﨑さん)
FSC認証紙を山櫻のベースに
しかし、当時はまだ、今ほどFSCの認知度は高くはなかった時代。いざFSC認証品を出しても、「FSCって高いんじゃないの?」とコスト面を気にする方もいて、お客様からの反応は鈍かったそうです。
「そこで、FSC認証品の中でも『マーク入り』と、『マークなし』(CoC品)を作ることにしたのです」(高﨑さん)
“FSCマークが入っているものがFSC認証紙”、“マークが入っていないものはそれ以外の紙”と区別するのではなく、「マーク入り」「マークなし」のどちらを選んでも使われている紙はFSC認証紙。「山櫻の紙はFSC」をベースにしてしまおうと、順次、FSC認証紙への切り替えを進めていったといいます。
「『マークなし』(CoC品)の場合、ひょっとしたらお客様は、FSCとは関係ない理由で、その製品を選んでいるかも知れません。色がよかったのかも知れないし、厚さがよかったのかも知れない。でも、それでいいと思うのです。あとから気がついて、『山櫻は信頼できる紙を使っている』と思ってもらえれば」(高﨑さん)
オリンピック、SDGsが追い風に。エシカル100%を目指す
FSCへの置き換えを進めていく中で、2013年に東京オリンピックの開催が決定します。さらに2015年には国連総会で「SDGs」が採択されました。特に、SDGsの17の目標の中の目標15「陸の豊かさを守ろう」の達成度をはかる指標のひとつとして、FSCへの関心が高まったといいます。
「ここ2年ほどで、FSC認証品に対するお客様からのお問い合わせがぐっと増えました。弊社はすでにラインナップを豊富に用意していたので、スムーズに対応することができました」(高﨑さん)
さらに同社では、FSC認証紙のほかにも、「非木材紙」や「間伐材」「バナナペーパー」「東北コットン」など、人にも環境にも配慮した原料を採用した「エシカル製品」を展開しています。同社の既製品・約3500品目の売上の実に43%(2017年度)がエシカル製品なのだそう。
「現時点でエシカル製品の売上が43%ということは、業界では圧倒的な数字だと自負しています。この数字を、SDGsの達成目標である2030年までに、いかに100%に近づけていくかが今後の目標です」(高﨑さん)
FSCを当たり前にしたい
同社がFSCの取り組みを続ける中で、高﨑さんは以前、お客様から感謝されたことがあるといいます。
「FSC認証紙に切り替えようと思って調べてみたら、実はすでに弊社からの供給でFSC認証紙を使っていたという企業様がいました。我々のような材料調達の責任のあるメーカーが高い意識を持ってFSC認証紙を使用していけば、お客様が気づかないうちに、FSCを広めることができます。山櫻のカタログを開けば、全ての紙製品はFSCがベースになっている。それが2030年までの山櫻の目標でもあります」(高﨑さん)
一方、広報を担当する岡田さんは、展示会などを通して、一般の方とお話する機会も多いといいます。
「展示会で一般の方とお話をしていると、FSCをはじめて知ったという方でも、熱心に説明を聞いてくれます。学校でFSCについてのレポートを書くのでFSCについて教えてほしいと、自分から声をかけてきてくれた学生さんもいました。年々FSCに対する関心が高まってきていることを感じます」(岡田さん)
取材を通して「お客様に信頼できる商品を提供していく」という同社の強い責任感をひしひしと感じました。みなさんも、今後の山櫻の取り組みにぜひ注目してくださいね!
- 株式会社山櫻
- 東京都中央区新富2-4-7
- http://www.yamazakura.co.jp/
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