2024.9.10

共感を軸に仲間づくりから永続的に取り組む
人と環境に優しい自然素材の家づくり

エコ建築考房「自然素材の家」

エコ建築考房は2018年にFSC認証材の利用を開始し、翌年にモデルハウス「春日井の家」で初めてFSCプロジェクト認証を取得しました。しかし、話題になっても売上にはつながらず、肩を落としていたといいます。それでもWWFジャパンとの連携をはじめ、さまざまな取り組みが実を結び、FSCの認知とともに少しずつ「サステナブルな家づくり」の輪が広がりつつあります。あえてFSC認証材を使い続けた理由、そして同社が目指すものとは何か。同社の喜多茂樹さん、小田千恵子さんにお話を伺いました。

お話しを伺った方

株式会社エコ建築考房
代表取締役社長 喜多 茂樹さん(左)、 住み心地アドバイザー 小田千恵子さん(右)
喜多さんは義父の後を継ぎ、創業27年企業の2代目。「化学品の営業から畑違いの世界に飛び込んで12年が経ちました。”茂る樹”という名で木の家づくりにご縁を感じています」。小田さんは9年前にエコ建築考房で家を建て、施主として同社の理念に共感。アルバイトを経て、現在はモデルハウスでの接客や「つなぐの森 ハリプー」の運営に携わる。「消費者目線で、木の家やFSC認証の意義をお伝えしています」。

「健やかに暮らせる家づくり」の一環としてFSC認証を取得

家を建てる時、どんなことを考えますか?立地や環境の良さ、快適で住心地がいいこと、魅力的なデザインなど、さまざまなポイントがあるでしょう。愛知県や岐阜県を中心に注文住宅の設計・施工を手がけるエコ建築考房の家づくりの理念は「健やかに暮らす」。建材に使われる化学物質が引き起こす『シックハウス症候群』が問題になる中で、健康で安全、快適で笑顔があふれる家を造りたいという思いを実現するための選択肢が「自然素材にこだわること」でした。

「1998年の創業以降、国産木材を使い、漆喰や珪藻土などの自然素材にこだわった家づくりに取り組んできました。私は7年前に社長職を先代から引き継いだのですが、専門家でないこともあり、私たちの家造りの良さを世の中にどうしたら伝えられるのかいろいろと試行錯誤を繰り返していました。その中で、FSCというメッセージ性の高い国際認証の存在を知ったんです」(喜多さん)

株式会社エコ建築考房 代表取締役社長 喜多 茂樹さん
株式会社エコ建築考房 代表取締役社長 喜多 茂樹さん

木材の供給元である、岐阜県東白川村産の木材を取り扱う仕入先からFSC認証材の存在を知らされ、その理念や考え方に触れて「これは自分たちが行っていることと完全に合致している」と直感したといいます。

「エコ建築考房では、家づくりを軸として、社員や仕入先、お客様、地域や環境も健やかであってほしいという思いから、『四方良し』を信条としています。家を建て終わった後も施主様との交流を大切にしており、実際に従業員の5人に1人は施主様でもあります。そうした私たちの取り組みと、森林保全だけでなく、働く人や現地の文化までを大切にするFSC認証の世界観は完全に重なっていると感じました。認証を取得することで自分たちの取り組みにもお墨付きがもらえると考えたのです」(喜多さん)

一時的な話題から、誰もが知る存在へと広げるために

2018年にFSC認証材の利用を始め、翌年に愛知県春日井市のモデルハウス「春日井の家」で初めてFSCプロジェクト認証を取得しました。民間初のプロジェクト認証ということでメディアにも取り上げられ、大きな反響があったといいます。

初めてFSCプロジェクト認証を取得した「春日井の家」
初めてFSCプロジェクト認証を取得した「春日井の家」

しかし、話題にはなったとはいえ、「FSC材で家を建てたい」という施主からのリクエストはほぼありませんでした。「FSCを知っている方、興味をもってくださる方はいても、自分の家にあえてFSC材を使おうという方はおらず、どこか距離を感じたというのが正直なところです。日本では放っておくといつまでも自然に広がらないと感じました」と、モデルハウスでアドバイザーとして顧客に接していた小田さんは振り返ります。

そこで「社内でもとびきりFSC愛が強いんです」と小田さんが評する、喜多さんが動き出しました。「ちょっとがっかりしましたが、一方で仕方ないとも思いました。他の林業家や同業者もFSCの認知・普及が広がらないことを悩んでいるし、”銀の弾丸”があるはずがない。それならFSCに共感する人たちが協力しあって、地道に広げていくしかないと思ったんです」(喜多さん)

株式会社エコ建築考房 住み心地アドバイザー 小田千恵子さん

WWFジャパンから講師を招いて、「まずは社内から」と社員や関係者を集めて勉強会を開催し、FSCの意義を共有・確認しました。また、2019年には安定的なFSC材の供給体制をつくるため、岐阜県東白川村を含む7社でFSC認証材の普及推進協定を結び、FSC認証材の利用促進と普及啓発を目的とした協力体制を再構築しました。

また、FSCに共感してくれる人を増やしたいという思いから、サステナブル活動に興味関心が高い企業の担当者や関係者を招いて、実際に東白川村の山へ行き植林をしたり、FSCの話を聞いたりしながら、体験を通じて知ってもらう企画を実施しています。そうした活動を通して、少しずつFSCに共感してくれる人が増え、「FSC材で家や店舗を建てる会社がある」という認知に広がっていったといいます。

社外初のFSCプロジェクト認証で法人向け物件に挑戦

FSCを軸にしたネットワークが広がっていく中で、はじめに依頼があったのは、愛知県春日井市で創業70年の老舗、勝川ランドリーからでした。4店舗目をFSC認証材で建造し、「森と海をまもるコインランドリー」と名付けられ2022年にオープンしました。

エコ建築考房が手掛けた、勝川ランドリーの「森と海をまもるコインランドリー」
エコ建築考房が手掛けた、勝川ランドリーの「森と海をまもるコインランドリー」

「同社は建物だけでなく、洗剤も環境への負荷が低いものを採用するなど、全方面に『エシカルランドリー』としてのコンセプトを貫いています。これも業界初のプロジェクト認証となり、メディアにも取り上げられるなど、大きな話題となりました。東本社長に『FSCを機に付き合う人が変わった。環境保全に本気で向き合う人たちとつながれた』と感謝されたことが印象的でした。まさに私たちも同じことを感じていたんです」(喜多さん)

喜多さんはこうした経験を「未来価値」と表現。「日本で初めてというのは、勇気がいること。でも、これからの社会に必要と思ったらやるしかないでしょう。そういう勇気のある人たちと一緒に仕事ができるのは嬉しいし、私たちにとっても挑戦のきっかけとなりました」と熱く語ります。

小田さんも、「当初はFSCで国産材、自然素材を使うとなると、その分費用もかかるので事業的にどうかと悩まれていました」と振り返り、「しかしながら、挑戦した結果をしっかりとアピールすることで十分な付加価値を得ることができたとして、最終的にはご満足いただけました。あらかじめ戦略を立て、信念をもって実施していくことが重要だと感じました」と語ります。

この案件と並行して取り組んでいた北名古屋市の五条和み公文式教室をはじめ、病院、美容院、飲食店といった事業者向けの建物についても引き合いが増えていきました。

事業者向け建築物の取り組みが、会社の信頼につながる

そして、事業者向けの物件が増えていくにつれ、もともと主事業にしていた個人の住宅についても依頼が増えてきたといいます。その理由について、小田さんは「FSC認証材を積極的に使おうという姿勢が、ハウスメーカーとしての信頼性につながったのではないか」と分析します。

「個人のお客様の関心は、耐震設計や省エネ住宅、建設費用などに集まり、残念ながらFSC認証が入る隙間はありません。しかし、パンフレットやメディアなどを通じてFSCに対する私たちの姿勢や取り組みを知り、『この会社に託したい』と感じていただけたのだと思います。その意味でも、適切に森を管理しているだけでなく、働く人の権利や生物多様性などまで重視しているというFSCのコンセプトを、自分たちの言葉でしっかり伝えられるよう、社内の理解も深めていきたいと思います」(小田さん)

しかしながら、できるだけ多くの人に森林保全やFSC認証について知ってもらうには、言葉以上に体験や感性を通じて伝えることが大切。そこで、FSC認証材を用いた子どもの遊び場「つなぐの森 ハリプー」を2022年に開設。木のぬくもりや気持ちよさを感じてもらう中で、森や自然の大切さやFSC認証について興味をもってもらえればといいます。

FSC認証材を用いた子どもの遊び場「つなぐの森 ハリプー」
https://ecoken.co.jp/econos/halipuu/

アジア初の「FSC連続プロジェクト認証」を取得

そして、さらにFSC認証材を使った物件が増えていくことを見越して、2023年にエコ建築考房ではアジア地域では初となる「連続プロジェクト認証」も取得しました(FSC-P001978)。これは物件のたびに申請・取得する「プロジェクト認証」に対して、会社組織としてプロジェクトを管理する能力について評価を受け、認証を維持している間に継続的にFSC認証材を使用した建物を建てられるというもの。これによってFSC認証取得のための時間やコストが押さえられ、プロモーションも行いやすくなります。

「2023年から、岐阜県・東白川村産のFSC認証木材を使用して年間約30棟の全ての新築住宅を設計・施工する予定です。これでこれまでFSC材を使いながらも認証を取得できなかった個人宅も、堂々と『FSC認証取得住宅です』といえるようになります。ホテルの丸適マークのように、なにかマークをつけられるといいなと思っています」(喜多さん)

そして今後については、FSC認証材の需要と供給のエコシステムを大きくすることで、マッチングの難しさを解消したいといいます。そのためには、実質的に手掛ける物件数を増やすことに加え、世の中の認識を変えていくことが大切です。

「環境配慮というと、どこか義務感のようなものを感じている人が多いのではないでしょうか。でも、私たちはFSCを選択することで消費者に認知され、信頼され、選ばれるという社会価値を得られるというビジネスチャンスとして訴求していきたいと考えています。そして、地方の工務店でもちゃんとビジネスとして継続できると証明し、志を同じくする仲間を増やしていけたらと考えています」(喜多さん)

きちんと管理された日本の森の木を使った、「健やかに暮らせる」家を、日本のどの場所でも選んで暮らすことができる。そんな構想の第一歩とも言える、エコ建築考房の取り組み。FSC認証の活用でさらに広がっていくことを期待したいですね。


株式会社エコ建築考房
愛知県一宮市九品町4-22
https://ecoken.co.jp

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