2018.7.18
森について学び、森の大切さを実感できる森 〜三菱製紙グループ「エコシステムアカデミー」の白河甲子の森〜
2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向かって、日本の環境保全活動が世界的にも注目され、急速にFSC認証の取得が進んでいます。それに先駆けて2001年に国内の製紙業界で最も早くFSC認証を取得したのが「三菱製紙グループ」。森の大切さを多くの人に広め、森林保全の知見を得ることを目的に2010年に「エコシステムアカデミー」を設立しています。今回はエコシステムアカデミーの活動拠点であり、三菱製紙の社有林であるFSC認証を取得した「白河甲子の森」を紹介します。
製紙メーカーが管理する、豊かなFSCの森
福島県の新白河駅から車で約30分。三菱製紙グループが保有する、エコシステムアカデミーの活動フィールド「白河甲子の森」は、約50haという広大な敷地に広がる冷温帯林です。約40年前に針葉樹であるアカマツを植樹した人工林ですが、足を踏み入れると赤い幹が特徴的なアカマツの木とともに、多彩な木や草が生い茂っているのがわかります。様々な虫が飛び交い、鳥のさえずりも聞こえるなど、生物の多様性を実感することができます。
「人工林でも間伐や下草刈りなど適正な管理をすれば、様々な生物がすむ豊かな森にすることができるんですよ。カタクリなどの珍しい花も見られますし、シカや野ウサギなどの哺乳類もたくさんいます」
そう語るのは、三菱製紙株式会社エコシステムアカデミー室長の長田雅一さん。エコシステムアカデミーの「ビジターセンター」で来館者に森について紹介するとともに、出前教室として様々な学校や施設に出かけて「森の恵み」に関する環境教育を実施しています。
「昔は森から燃料や食べ物を調達し、木々が生育しやすいよう手入れをするなど、人の生活と森とが共存していました。でも、今の生活では、森と触れ合う機会が少なくなっています。しかし、森を含めて自然環境を守ることは、私たち人間が生きていくためにも大切なこと。そう実感するためには、やはり森に来て、木や生き物と触れ合い、森の仕組みや働きを知ってもらうことだと思うんです」
多彩な人たちとの連携で豊かな森は守られる
長田さんと一緒に森を歩いてみました。やや標高が高く乾燥したエリアにはアカマツが多くみられます。アカマツは全て植林されており、しっかりと間伐がなされているエリアのアカマツ率は60〜85%程度。コナラなどの落葉樹、モチツツジやヤマウルシのような低木の姿も見られます。ところどころで光が差し込み、歩いていてもいい気分です。
一方、手入れをしていないエリアは、アカマツ率が95%にもなるところも。遠目でしか見られませんでしたが、うっそうとした森は昼でも薄暗く、木や草の種類も少なく、当然ながら動物たちの姿もほとんど見られないといいます。
「こういう森は『線香林』とも呼ばれ、日本各地でたくさん見られます。木は線香のようにひょろひょろで風雨や雪で折れることも多く、根がしっかり張っておらず、水を蓄える力が弱いので、大水や山崩れといった災害の原因にもなっています。戦後に多く植林されたものの、外国産の安価な木材に押され、そのまま放置されているためです。白河甲子の森は元々放牧地であった場所にアカマツを植林しています。事業の変遷を経て放置されていましたが、今は少しずつ間伐などの手入れをすることで、森を生き返らせようとしているのです」
「森を護る」といえば「人が手を入れないこと」と思いがち。しかし、荒れた森が自然に再生するには数百年以上の時間が必要であり、「緑のダム」が元に戻るまで、災害による土石の流出やそれに伴う海への影響も甚大となります。生態系のバランスが整っている原生林はともかく、人間が利用してきた人工林では、「適正に管理すること」が大切なのだといいます。
「管理のためには人の手が必要であり、コストがかかります。そこで、森の恵みを活用し、循環させていく必要があります。もちろん、それは当社だけではできません。森林組合や製材所などの事業者、さらに自治体などの協力が重要です。そして、それを利用する消費者の参加があって初めて『森を護る輪』が完成するんです」
次世代に森を伝えていくための研究・調査の場
今度はアカマツの森を抜けて、やや低地の水辺に近い森を散策します。この辺りではやや低めの木が多い様子。先ほどは少ししか見られなかったミズキやミズナラなどの広葉樹がメインです。足元には秋に落ちたどんぐりが残っており、ブナやオニグルミなど、動物が好んで食べる実をつける木も多くみられます。
「この辺りは川が近いので水分が多く、土も肥えています。そういう場所を好むのがカツラやミズキなどの落葉広葉樹です。そうそう、ミズナラ、ミズキの“ミズ”は水辺を好む木、切ると水分が多い木という意味があるんですよ。針葉樹に比べて着火しにくいのですが、ススが出にくく、じんわり火持ちします。こうした川沿いは人が気軽に入れることもあり、炭や薪に利用されていたのでしょう」
確かに針葉樹の森よりも木の種類が多く、込み入ったところもあれば、広場のように少し開けた場所もあり、表情豊か。バットなどになる硬い「アオダモ」、強度を活かし建築材に適した「クリ」、いい香りがするため和菓子用高級爪楊枝にも使われる「クロモジ」など、暮らしの中で利用されている様々な木がありました。
「こうした森がどのように作られ、再生していくのか。伐採によって広場になった一角を2011年から定点観察しています。少しずつ植物が生長し、種類が変わっていく様子は興味深いですね。あと何年で本来の森になるのか、気の遠くなる話ですが…」
またアカマツの森では、その年に松ぼっくりから落ちた種子がどれだけ芽を出し、生き残っていくのかも観察しています。調査結果からは、たとえ100本芽吹いたとしても翌年には1本程度、それも数年後にはなくなってしまうことがわかっています。生き残ることの厳しさや植生の面白さを感じられるのだとか。
「日本野鳥の会などの協力を得て、野鳥観測なども行なっていますし、学校や自治体、企業などと連携して、多くの方々に森の大切さ、面白さを紹介しています。これからも、様々な森の物語を伝えていきたいですね」
エコシステムアカデミーのFSCの森の情報については、FSC応援プロジェクトでも紹介していきます。ぜひ、当サイトやFacebookなどをチェックしてくださいね。
三菱製紙グループ エコシステムアカデミー事務局
福島県西白河郡西郷村字前山西3番地 三菱製紙 白河事業所内
http://ecosystemacademy.jp/index.html
<長田雅一さんのプロフィール>
福井県大野市出身。1984年三菱製紙入社。京都工場、ダイヤミック(株)、本社にて主としてイメージング事業での技術サービスを担当。2012年より白河事業所に勤務し、生産技術センターを経て2013年よりエコシステムアカデミー室長を務める。趣味はランニング。自然を愛し街中からトレイルまで駆け回る。
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