森の達人・三崎孝平の樹木雑学

2019.10.15

【第15回】秋の黄葉が美しい「カツラ」の話


夏の暑さも去り、めっきり秋らしくなってきました。
秋といえば、野山が美しく色づく季節。そこで今回は、秋の“黄葉”が美しい「カツラ」について、森の達人・ 三崎孝平さんに紹介していただきます。

 

幹の直径は1メートル、樹高は30メートル以上!

カツラ(Cercidiphyllum japonicum)は、カツラ科カツラ属に属する落葉性の高木樹種で、日本列島の北海道から九州までの冷温帯の渓流沿いの水際に広く分布しています。直径は1m、樹高は30mを優に超え、大木になると株立ち(一本の茎の根元から複数の茎が分かれて立ち上がっている状態のこと)になるものが多いです。

カツラの巨木

材は比較的軟らかく、かつ緻密均質なので加工しやすく(削りやすく)、彫刻材や版木のほか、鋳物や靴の木型に使われます。大きな材が得られることから、仏像にも多く用いられ東北地方※の仏像はカツラ材を使ったものが多いと言われています。また、囲碁・将棋盤にもカツラ材がよく使われます。
 
※平安初期までの仏像はカヤ材で作られたものが多く存在し、その後、カヤの代用材としてヒノキが使われるようになりました。しかし、東北地方ではヒノキが育たないため、さらに代用材としてケヤキやカツラが使われるように。特にカツラは、良質の大径木が手に入りやすかったことから、東北地方でカツラ材の仏像が多いと言われています。
 

葉は全体的に丸く、葉のつけ根の部分がややハート型で対生(たいせい:葉が茎の一つの節に2枚向かい合ってつくこと)し、葉縁(ようえん:葉のへり)は、なめらかな波状になっています。

対生するハート型のカツラの葉

赤く萌え出る早春の芽吹き、初夏の新緑はみずみずしい萌黄色、夏は深緑色、秋には黄葉し落ち着いた雰囲気になり、季節ごとに葉の色を楽しむことができます。特に新緑を木の下からの透過光で見上げると、とても美しさを感じます。

  • 春の芽吹き

  • 初夏の新緑

秋の黄葉


 

秋の渓流沿いに漂う、甘い香りの正体は?

ところで、秋のこの時期に渓流沿いを歩いていると、甘い香りが漂ってくることがあります。ぼんやりとしていると気づかないほどの香りなので、少し離れると匂わなくなります。まるで「森の中でお菓子屋さんがクッキーを焼いているような」「キャラメルのような」「綿菓子のような」「醤油せんべいのような」とても良い香りです。人によって印象は違うようですが、一度覚えると間違えることがない独特なものです。
 

この香りはカツラの葉に含まれる「マルトール」という香りの成分によるもので、緑葉ではなく、枯れた葉(黄葉)から出ていることがわかっています。落ち葉を手の中で揉んでみたり、ビニールの袋に沢山入れてその香りを楽しんでみてください。「カツラ」の名前の由来は、葉が香りを出す「香出(かづ)ら」からきたと言われています。
 

 
春の芽吹きから秋の黄葉、そして落葉の香り。カツラは一年中楽しめる樹木かもしれません。
 
 

<「森の達人」こと、三崎孝平さんプロフィール>
環境保全に貢献するという目的で設立されたエコシステムアカデミーのシニアインストラクターや全国森林インストラクター会会員として活躍中。日本各地の学校や森を飛びまわり、森の大切さや、FSC森林認証について伝えています。このコーナーでは、森や自然がますます身近になる楽しい情報を「樹木講座」としてお届けしています。

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