2020.1.24

都立国際高校の生徒が立ち上げた「Team if.」

「長く、良いものを使う社会」を目指し、国産木材の魅力を発信するringプロジェクトを推進 

「もし、僕らがいま何かすれば、僕らの未来ってもっと明るくなるんじゃない?」
東京都立国際高等学校の生徒4人による「Team if.」は、そんな一言から生まれました。「長く、良いものを使う社会」を目指し、国産材定期入れの販売とその収益によるワークショップの実施などを通して同世代に大量消費の問題について考えてもらう「ring」というプロジェクトに取り組んでいます。どのような思いで、何をしてきたのか、Team if.を立ち上げた金居新大さん、白土亜明さん、品川陸人さん、倪政一さんの4人に直撃インタビューしました。

2年前にTeam if.を立ち上げた都立国際高校3年生の4人。左から倪政一さん、品川陸人さん、白土亜明さん、金居新大さん

 

ベニヤ板から透けて見えた、世界の消費の問題

Team if.のメンバーが大量消費や森林破壊の問題に関心をもつようになったきっかけは、高校1年生の時に受けた授業だったといいます。

「生物の授業でドキュメンタリー映画を視聴し、大量消費の裏側に危険な環境で安価な労働を強いられる人がいることを知りました。また、英語の教科書にある英文を読んで、ボルネオ島では、木材の輸出のための過剰な森林伐採やパーム油生産のための農地転換によって急速に自然破壊が進んでいることを知りました。そして、その年の学校の文化祭で使ったベニヤ板に原産地としてボルネオ島の名前が書かれているのに気づき、こうした問題は遠い国の話ではなく、自分たちの生活と密接につながっているんだと実感したのです」(金居さん)

ボルネオ島の現状

もともと部活動やクラスが一緒で仲の良かった4人。授業で気づいたことや日常生活で感じていることを語り合うなかで、「もし(if)、僕らがいま何かすれば、僕らの未来ってもっと明るくなるんじゃない?」と思い立ち、未来のためにチームで行動を起こすことに。これがTeam if.の始まりです。

「あまりに安すぎる商品を買うことが世界各地で社会問題や環境問題を引き起こしていることは、多くの人が知っています。でも、その知識が行動に結びついていません。一人ひとりがものを買う時に消費の裏側にあることを想像し、良いものを長く大切に使うようになってほしい。そのために何ができるかをみんなで考え始めました」(金居さん)

Team if.のリーダー金居さん。小さい頃は里山でカメやコイを捕まえて遊んでいたという自然派

“Think globally, Act locally”を合言葉に、国産木材の魅力を伝えるプロジェクトを開始

2018年夏、金居さんと品川さんは、一般社団法人Think the EarthがSDGs(持続可能な開発目標)をテーマとした教育プロジェクトの1つとして実施している中高生対象ボルネオスタディツアーに参加しました。壮大な熱帯雨林が広がり、生物多様性豊かなボルネオ島。そこで森の乱伐や野生動物が受ける迫害の実態を目の当たりに。一方で、現地の人にインタビューし、森林を切り拓いて作ったパーム油生産のためのプランテーションが彼らの生活を支えていることもわかり、問題の複雑さを知ったといいます。

「“自然破壊のもととなっているパーム油を使わなければ解決する”という単純な問題ではないと気づきました。だからといって、このままでは環境問題は悪化する一方です。じゃあどうすればいいんだろう、とモヤモヤを抱えて帰国しました」(品川さん)

海外で暮らした経験があり、英語が得意な品川さん

帰国後、ボルネオ島での経験をチームで共有。問題解決に向けて何が必要なのか、自分たちに何ができるか。放課後に4人でディスカッションする日々が、半年ぐらい続きました。次第に彼らは、日本の森林問題にも目を向けるようになっていきます。

「初めは海外にばかり目を向けていましたが、足元の国内はどうなんだろうと思って調べてみると、日本の森林も深刻な問題を抱えていることがわかったんです。安い海外の木材に頼る消費が日本の人工林の放置を招き、自然災害や生態系にも影響している…。まずはそこからではないかと、国産の木材にフォーカスするようになりました」(白土さん)

「僕らのモットーは”Think globally, Act locally”。地球規模の視点をもって、まず身のまわりでできることからアクションを起こしていきたい」と語る白土さん

「わからないことは詳しい大人に教えてもらおう」と、FSCジャパンやエシカル協会のほか、環境問題に取り組む企業や個人などを訪ねて話を聞いたり、檜原村で林業従事者から日本の森林の実情を体験的に学んだりもしました。

「木を伐って循環させることが森を元気にするのだから、ある意味、使い続けることは環境を守ること。問題は『木を使うこと』ではなく『“何も考えずに”木を使うこと』なのだと学びました」(金居さん)

国産材をもっと活用することで、日本の林業が活性化されるとともに、間接的に海外の過剰な森林伐採を少しでも抑えることができるのではないか。そうした考えから、国産材の魅力を伝え、「考える消費」を促進するringプロジェクトが本格始動しました。

ringというプロジェクト名は、四季のある日本の木だからこそ刻まれていく年輪に着想を得たもの。「この年輪のように僕たちの活動を広めていきたいという思いを込めました」と金居さん

国産杉を使った定期入れを企画・販売し、若い世代を啓発

ringプロジェクトの最初のフェーズでは、まず未来の消費の中心となる高校生にターゲットを絞り、国産材を使った定期入れの企画と販売を行いました。製造を委託する会社を探して商品企画の相談から価格交渉まで行い、国産杉を使った定期入れ約300個を学校や百貨店などで、プロジェクトの趣旨を伝えながら販売したそうです。

Team if.が企画・販売した定期入れ。表面をウレタン加工せず、杉の香りや手触りを残すことで、日常的に木の良さを感じてもらうねらい

第2のフェーズは、定期入れの販売利益を使った、小さな子ども対象のお箸づくりワークショップの開催です。

百貨店で実施したお箸づくりワークショップには、高校の後輩たちも手伝いに

ターゲットを自分たちより若い世代、その親世代にも拡大し、長く使える木製箸を自分の手で作る体験を通じて「考える消費」の大切さを伝えるのがねらいです。日本最大級の面積のFSC森林認証林があり、お箸づくりワークショップのノウハウをもつ静岡県浜松市の協力を得て、これまで児童館やショッピングモールなどを会場に4回開催。合計約1000人が参加しました。

「ワークショップで小さな子たちとふれあい、僕たちが頑張って活動してこの子たちの未来に豊かな森を残したい、という使命感が大きくなりました」(倪さん)

小さな子どもたちの未来のためという、活動の意義を一層強く感じた倪さん(左)

第3のフェーズは、認定NPO法人ボルネオ保全トラスト・ジャパンが取り組む「緑の回廊プロジェクト」への寄付です。

「『緑の回廊プロジェクト』とは、ボルネオ島の土地を買い取ることでアブラヤシプランテーションによって分断された森をつなぎ、生物多様性を保全する取り組みです。定期入れの販売利益の一部を寄付し、およそ教室1つ分の土地の購入につなげました」(白土さん)

こうして当初計画したフェーズ1~3は一通り実施しましたが、プロジェクトは終わりではありません。現在、新型の定期入れを開発中だそう。素材にはFSC認証材を使い、木目の向きを変えて強度をアップした商品を近々販売予定です。

 

社会貢献プロジェクトのワールドカップで3位入賞! 世界も認めた彼らの活動

当初よりringプロジェクトは、多くの人に効果的にメッセージを伝えるため、高校生の社会貢献活動の世界大会である「SAGE World cup」への出場を1つの目標として活動してきました。その目標どおり、2019年、国内大会での優勝を経て、日本代表として「SAGE World cup 2019」に出場。約30カ国が参加するなか、見事3位に入賞し、さらにSDGsの目標15番「陸の豊かさを守ろう」と17番「パートナーシップで目標を達成しよう」の賞を受賞しました。

「世界大会直前は、英語によるプレゼンテーションに備え、連日ファミレスでスプーンをマイクに見立てて何度も練習を繰り返しました。1位を狙っていたので、3位という結果は正直いうと悔しい。それでも、さまざまな団体、企業、自治体の方々と力を合わせて取り組んだプロジェクトなので、パートナーシップの賞がいただけたことには特別な嬉しさがあります」(金居さん)

サンフランシスコで開催された「SAGE World cup 2019」

それぞれ別の進路で、プロジェクト経験を生かしていく

今春、4人は高校を卒業し、それぞれ別の進路に進みます。
「大学の農学系学部で木材をテーマに環境問題の解決策を探りたい」(金居さん)
「オランダの大学に進学し、生態系の分野から環境問題にアプローチしていきます」(品川さん)
「大学では、消費者の反対側にある企業経営のあり方について学んでいきたい」(白土さん)
「経営学を学び、のちのちは出身地の社会問題を解決するソーシャルビジネスを起こすのが目標です」(倪さん)
方向性は異なりますが、4人ともringプロジェクトの経験が進路に大きく影響したようです。

Team if.の活動に対する共感の輪は、着実に広がりをみせています。現在、趣旨に賛同する約20人の後輩が4人と一緒に活動するように。「後輩たち、森林や環境について教えてくださった大人の皆さん、木製小物づくりに協力してくださった企業、後輩たち…今まで関わってくれた方たちみんながTeam if.」と金居さん。4人が卒業した後も、Team if.のプラットフォームは残す意向です。

「僕らが目指す『長く、良いものを使う社会』の実現は理想論だといわれるかもしれません。でも、自分にできる小さなところから変えていくという積み重ねによって、僕らの子や孫の時代、みんなが良いものを買う余裕があり、そして良いものが供給される社会に少しでも近づいていることを思い描いてやっていきます」(金居さん)

活動の原動力は、未来に向けた使命感や責任感はもちろん、仲間と一緒に真剣に取り組むことの楽しさもあったといいます。明るく前向きに挑戦を続ける彼らの姿に、肩肘張らずできることから行動していく大切さを教えてもらいました。
 
 

Team if.

FSC C011851

RELATED POST関連記事